劇場公開日 1965年11月27日

「会社がなくなったあとも愛され続けるもう一つの大怪獣」大怪獣ガメラ TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5会社がなくなったあとも愛され続けるもう一つの大怪獣

2025年5月4日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

単純

 怪獣王ゴジラと並ぶ人気怪獣ガメラの初登場作にして人気シリーズ第一作。

 ライバル東宝の独占状態だった特撮怪獣ものに対抗するため、ワンマン社長永田雅一のツルの一声で生まれたカメ怪獣ガメラ。
 カラー化する費用もないほどの低予算で製作され、当時の大映関係者の誰もヒットを期待しなかった中、その後倒産するまで合計7作がシリーズ化され、永田体制終焉後もたびたび映像化されている。

 松竹のギララや日活のガッパが単発で終わったのに、ガメラが長続きすることになる理由の一つは、本作に見られる大映特有の画面作りへのこだわりにある。

 限られた予算で東宝ほどのセットが用意できないなか、ガメラのアップ映像を効果的に用いた東京襲撃の場面は迫力十分。結果的にモノクロで撮ったナイトシーンは『ゴジラ』(1954)の黙示録的印象には及ばないものの、公開当時、劇場での観賞に値するだけのインパクトはあったと思う。
 炎上する都心を背景にガメラが仁王立ちする場面はパペットを使用した『ゴジラ』を凌ぐ迫力。

 ゴジラの放射能熱線が合成で処理されたのに対し、本作のガメラの火炎放射は本物の火で表現。いろんな物に燃え移って撮影は大変だったそう。

 奮闘した撮影陣とは逆にストーリーは安易で貧弱。

 突然登場するZ計画の詳細は不明だし、体長60m(当時の設定)のガメラを格納出来る巨大ドームの本来の用途も謎。

 通常兵器が役に立たず、現場の自衛隊の判断で米軍に核ミサイル投下を要請するなど信じられない展開も。
 ゴジラ同様、核兵器でガメラが目覚める設定なのに反戦・反核のメッセージ性は皆無。この辺りに大映と東宝の体質の差が窺える。

 登場する二人の動物学者もガメラの退治方法に執心するだけで、『ゴジラ』の山根博士のように研究者の立場から怪獣抹殺に反対したりはしない。

 代わりにその役割を担うのが俊夫少年。

 北海道に上陸したガメラが灯台を破壊した際、落下した俊夫を助けたために、彼はガメラに強烈なシンパシーを感じ、最後はほとんどパラノイア。
 転勤続きで友だちができず、避難先のいとこからも邪険に扱われる少年の孤立感の隠喩なのだろうが、誰も続編なんて視野になかった段階でたまたま組み入れた設定がのちの子供の味方というゴジラとの差別化に繋がり、シリーズ作品を支えることに。
 高度成長時代、単身赴任が当たり前でサラリーマンが社畜化され、家庭に不在気味だった父親に代わる存在としてガメラが子供の支持を得たような気もする。

 身近な生き物の怪獣化に成功したことも長く親しまれる要因の一つなのだろう。

 生物学者の日高教授を演じる船越英二(親子して声がそっくり)に加えて先輩格の古生物学者、村瀬博士役で出演する浜村純は新劇出身の本格俳優。こんな映画によく出たなと思うが、『ゴジラ』の志村喬だって同じようなものか。

 ほかにも脇役俳優の吉田義夫がイヌイットの酋長を英語のセリフで熱演。少ない出番ながら、いい味を出している。

『ゴジラ』がハリウッド映画の『原子怪獣現わる』(1953)をヒントに作られた話は有名だが、本作の戦闘機が墜落したあと氷原を割ってガメラが現れる場面や灯台襲撃シーンも同作からの引用。というか、ほとんどパクリ。

 甲羅を鱗様にデザインしたアイデアは秀逸なのに、焼き網みたいな腹甲のラインが逆に残念。

 映画としてのクオリティは高くないが、懐かしさと記念碑的価値に敬意を表して星3.5。

 BS12トゥエルビにて観賞。

 本来、この時期に本作を放送すべきは、『GAMERA ―rebirth―』を放送中のNHKだと思う。
 どうして企画をリンクして盛り上げようという発想に至らないのか不思議。

TRINITY:The Righthanded Devil
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