火宅の人のレビュー・感想・評価
全5件を表示
文芸エンターテイメント
檀一雄原作・深作欣二監督86年。
70年代に実録ヤクザ映画で一時代を築いた深作監督は、80年代にはオールスター映画や文芸大作に抜擢されることが多く、今考えるとそれは違うだろうという方向性なのだが(90年代にまたバイオレント映画で気を吐くのを見れば明らか)今作はどうか。
面白い!無頼派の原作を上手く自身の得意なエンタメに引き寄せ、役者の魅力を引き出し、見どころもちゃんと作ってる。
大雨の中いきなり家に帰ってくる妻のシーン。愛人と悶着し部屋で大暴れする一連のシーン。どれも見事ですわ。
緒形拳のリアリティある優柔不断さ、ズルさ、弱さの演技が素晴らしい。原田美枝子・松坂慶子のおしみの無い裸体良し。しかし最後はいしだあゆみがさらってしまう。
正直深みはないが、文芸エンターテイメントとして完成度の高い作品でした。
いしだあゆみの演じる妻と子供達の母は、自分を置いて消えない母だと確信できたとき物語は完結するのです
深作欣二監督ながら、今村昌平監督作品のような味わいがありました
もちろん単に緒形拳が九州弁で登場するからではありません
これほど男と女の心情のひだを繊細に撮れる監督だったのです
抒情的なシーンも美しく心を打ちました
無茶苦茶な男です
登場する女性は全て泣くシーンがあるのです
しかし観終わった時に残されているのは、主人公への共感と感動だったのです
男は無意識に自分にとっての理想の母を求めるものです
子供にとってではなく、自分にとっての理想の母を、実は女性に求めているものなのです
母とは、子供が何をしても無限に許してくれる存在なのです
そうして主人公に限らず男は誰しも母が消えて無くなるかもしれない不安を打ち消す為に、つい女性を試めしてしまうものなのです
次郎が日本脳炎に罹患した時、男は妻が子供に取られると確信し、彼女に逃げられる前に、自ら先に逃げ出したのです
というより無理にでも逃げるように仕向けたのです
戻ってきたならまた、逃げるように努力したのです
冒頭で語られた彼の子供の時代のトラウマがそうさせるのです
そして両親に見捨てられているのかも知れないと次郎がその病状の中で理解した時に起こした行動に彼はようやく自分が何をしていたのかに初めて思い至ったのです
次郎がやったことは自分がやっていることと同じなのです
そして石神井公園のラストシーン
いしだあゆみの演じる妻であり、同時に子供達の母は、自分を置いて決して消えない母だと彼が確信できたとき、この物語は完結するのです
私には物凄い共感があり、納得と得心のいく結末でした
彼が彼女から逃避しようと焦燥する不安は雲散霧消したのです
あなたが女性なら、この妻のような男の愛し方をできるのでしょうか?
あなたのなさること、わたし何でもわかるんです
そして笑顔
完敗だ、この女の深い愛にはもうかなわない
お釈迦様の手のひらから逃れられない孫悟空みたいなものだ
男に、心の奥の奥まで自分という女性に依存していたことを、本当に自分が愛していたのは誰なのかを心の底から、男に言葉でなく理解させたのです
その様な男の愛し方を、あなたはできますか?
自転車で走り去るいしだあゆみの笑顔の力は、それほどの、男の疑心を完膚なきまで破壊する力を持つものでした
映画「駅station」で彼女が冒頭の鉄道での別れのシーンで見せた笑顔のおどけた敬礼にも匹敵する破壊力でした
それほどの強烈な印象を残す素晴らしいラストシーンもそうないのではないでしょうか
なるほど日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の賞を総なめにするのも当然です
面白い
昔のぶっ飛んだ思想を味わえる作品ではないでしょうか。「ぶっ飛んだ」というのは、より感情や煩悩に敏感だった時代を、現代の科学的で冷静な時代の私達が観ると滑稽であるということです。そうして僕らは一回り完成された人間のように勘違いし、結局は感情の非論理的な、非効率的なところに振り回されているのだと思います。正面から向かっていた時代。唐突な大声も感情の起点がしっかりと感じられました。現代のセンシティブ?な作品は血の美を求めているとしか感じない…サイコパスてもはや。
俳優陣は圧巻としか…松坂慶子さんは本当にお美しいが芝居はどの作品も近いですね。ただ役割を全うされているのでやはりすごい。
人間の本質に迫る骨太な題材ながら、役者たちの熱演、深作監督の快調な演出で、娯楽性と見応え満点の文芸映画!
深作欣二監督、緒形拳&実力派女優陣豪華共演…これで面白くない訳がない!
タイトル“火宅の人”とは、火に包まれた家の如く、煩悩や苦しみに包まれた人という意味で(確か合ってるハズ?)、緒形拳演じる主人公を表した、なるほど天晴れなタイトル。
男と女の腐れ縁というか、男と女の生々しい姿、男の駄目姿、女の逞しさ…等が、時にユーモラスに時に哀しげに描かれていた。
主演の緒形拳がとにかく巧い!
「復讐するは我にあり」「楢山節考」等での硬派な名演が印象深いが、「鬼畜」にも通じる駄目男振りもリアリティたっぷり。
何を演じても巧い、数年前に亡くなられてしまったのが本当に惜しまれる。
三者三様の女優陣は誰もが印象深いが、とりわけ原田美枝子は圧巻の一言。
最近は優しい母親等脇が多いが、本作では大胆な濡れ場やヌードシーンに体当たりで熱演、若い頃から名女優だったんだなぁと改めて感じた。
また、いしだあゆみ演じる、貞淑そうに見えて実は肝が据わってる女房も印象深い。
今はこういう映画はあまり作られない。
昔は良かった…とはあまり言いたくないが、今また、こういう人間の本質に迫る骨太な映画が作られて欲しいものだ。
全5件を表示