「クレージーのラストジャズ」会社物語 MEMORIES OF YOU 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
クレージーのラストジャズ
市川準はこの時40歳で、映画監督2作目。
それで中年サラリーマンの悲哀をしみじみ描き出すとは、昔から名演出家だった。
59歳、サラリーマンたちが迎える“定年”前に死去。ご存命だったら今も秀作を作り続けていただろう。
また本作は、キャストの存在感によるものが大きい。ハナ肇とクレージーキャッツ。
もうファーストシーンから。ハナ肇の名演が素晴らしい。
その表情、背中、よれよれのスーツにコート…。佇まいも相まって、人生にくたびれた初老の男を物語る。
会社に人生を捧げてきた。定年間近。
が、誰も気にも留めてくれない。祝ってもくれない。
家に帰っても息子が問題。
誰にも労って貰えず、静かに会社を去るだけ。
切ない…。
全くのゼロではない。同じ出世コースから外れた中年サラリーマンたち。
ある誘いが。退職前にジャズ・コンサートをやりましょう。
その昔、ジャズをかじった事あり。同じくジャズ経験のある同僚らに声を掛け、中年サラリーマン・ジャズバンドを結成し…。
クレージーキャッツは言わずと知れたお笑いグループであり、ジャズバンド。笑いも音楽もやるドリフの先輩。
中年迎えた面々とかつてジャズバンドだったクレージーキャッツがシンクロ。
また、役名が本人たちを捩っているのも愉快。
ハナ肇→花岡始
植木等→上木原等
谷啓→谷山啓
犬塚弘→犬山弘
安田伸→安井伸
桜井センリ→桜田千里
石橋エータロー→石橋二郎
7人が居酒屋で、ジャズや各々を語り合うシーンはさながらドキュメント。
その直後の植木等の台詞は、かつての自身の代表主演作を思い起こさせるものであり、クレージーキャッツへの労いでもある。
7人全員が揃った最後の作品でもある。
遂に迎えたコンサート。多くの社員が詰め寄せる中、最高の演奏を披露し、サラリーマン生活を華々しく終えた。
…になると思っていた。
コンサート直前、家から緊急の連絡。息子が大暴れ。
急いで家に戻り、場を収める。
胸を覆う空虚さ。再び会社に戻ると…、
メンバーは待っていた。観客もほとんど帰ったが、若干名。
コンサートが始まる。当初とは違ったかもしれないが、ドラムを叩く!叩く!叩く!
がむしゃらに。ありったけの思いを込めて。
今自分が魅せられる、自分の人生の一つのフィナーレ。
クレージーキャッツが素晴らしいジャズ演奏を披露。
この時すでに活動は停止状態だったが、健在ぶりを見せ付けた。
花岡の一念発起の理由は、もう一つ。
若いOLの由美。
別に中年過ぎての恋…ではないが、その若さが糧となる。二人っきりで送別会もしてくれた。
彼女にはエリートの恋人がいたが、常務の娘と婚約。
退職の日、花岡はそのエリートをぶん殴る。
しがない中年が最後に見せた男。