劇場公開日 1960年1月15日

「夜の社交場をクールにみせる。音響効果が素晴らしい。」女が階段を上る時 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0夜の社交場をクールにみせる。音響効果が素晴らしい。

2025年1月17日
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鑑賞方法:映画館

故相米慎二が日本映画のオールタイムベスト3のうち一本として挙げた作品である。成瀬巳喜男の作品であれば「浮雲」か「めし」あたりを挙げるかと思いきや「浮雲」と同じく高峰秀子と森雅之が主役を演じた本作を持ってきた。稀代の見巧者だった相米慎二の鑑賞眼の確かさには呻らざるを得ない。
勘定貸しによる高価な遊興費設定、資本と経営の分離、ママを頂点にした店内ヒエラルキーの設定、いずれも見事なまでに洗練された銀座のシステムを背景にして男女の騙し合いの姿をクールに描いた傑作である。脚本、演出、撮影すべてが秀逸であり、もちろん高峰秀子の演技、身のこなしの素晴らしさは言うまでもない。ただ私としてはこの映画の音響技術を特筆すべき要素として挙げておきたい。音楽は黛敏郎であり明らかにこの2年前に製作されたフランス映画「死刑台のエレベーター」の影響をみて取ることができる。ただこの作品で採用されているパースペクタ・ステレオシステムでは現在のフルステレオちは異なり同時に複数の音をステレオ音声にすることはできなかった。だからセリフは簡潔に、効果音は少なめに、そして劇伴はエモーショナルに、それぞれを組み合わせて各シーンの優先すべき音が選ばれて鮮やかに構成されている。このこと一つだけでも劇場で観る価値のある作品である。

あんちゃん