「したたかな女とズルい男の大人の愛の物語」女が階段を上る時 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
したたかな女とズルい男の大人の愛の物語
成瀬作品は本当に抒情豊かだ。どんな待遇にあろうとも、儚く、強く、愛情豊かで時にずるく立ち回るが、気高く、品ある女性・・・。こんな女性を描ける成瀬監督と、それを演じられる高峰秀子の素晴らしさ!
銀座のバーの雇われマダムの生活は、華やかな見た目とは裏腹に、様々な苦労が絶えない。高価な着物や香水、贅沢なマンション生活はすべて”職業上の必要経費”だ。借金を抱えた家族を養い、病気で寝ていても請求書の夢にうなされるほどだ。そして絶えず男たちに言い寄られる毎日。嫌な客のあしらい方を身につけ、銀座のバーという世界で生きる女・・・。2階にある店へ階段を上る時、いつもそれなりの覚悟を決めなければならない彼女にとても共感を持つ。時折差し挟まれる、高峰本人による、ちょっとくたびれたハスキーヴォイスのナレーションが、彼女の心情を冷静に表現され、なんだか切ない気持ちにさせられる。
さて、そんなしたたかに生きる女たちに、下心で近づいてくるズルい男たち。どんなに強い意志を持っていても、たまには心に隙間が出来る。男たちはなんとその隙を見逃さないことか!女性の描き方が上手い成瀬だが、男のズルさを描かせても天下一品だ。特に森演じるヒロインの想い人のズルさといったら半端じゃない。ヒロインがついに彼に体を許してしまうのは、他の男に騙されて気落ちをしていたからだけではない、長年想いを寄せていたから。それを知りつつ付け入り、翌朝「大阪に転勤になった」とあっさり言い放つ男の酷さ。しかも「夕べのうちに言い出せず、こういうことになった俺はズルい男さ」と、予防線をはれるほど世慣れた男。これで女は男をなじることすらできなくなる。私は、男女の機微が情感豊かに描かれるこの2人のシーンがとても好きだ。黛敏郎の乾いた質感の音楽効果も相まって、大人の男と女の最低な関係を、ドロドロとネチっこく描写せずに、あくまでも都会的にスタイリッシュに描くセンスの良さ。
銀座に生きる女は、どんなに男に騙されても泣き寝入りはしない。男が大阪に旅立つ日、駅のホームに見送りに来る女。男の妻とにこやかに対峙する姿のしたたかさ。そうして彼女は、また1つ階段を上るのだ、その先に何が待っていようとも・・・・。