おもひでぽろぽろのレビュー・感想・評価
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破天荒なアニメ監督が遺した、大人の為のアニメ。あの頃のおもひでに涙がぽろぽろ。
東京で暮らす27歳のOLタエ子。小学5年生の思い出と共に山形での田舎生活を過ごすうちに、大切なことを学んでゆく、というヒューマンドラマ・アニメ。
監督/脚本は『パンダコパンダ』シリーズや『火垂るの墓』の、伝説のアニメ監督高畑勲。
製作プロデューサーを務めたのは『となりのトトロ』『魔女の宅急便』の、高畑勲の盟友でもある天才・宮崎駿。
子供の頃、金曜ロードショーで放送されるジブリアニメは何よりの楽しみだった。
『天空の城ラピュタ』『紅の豚』『耳をすませば』『もののけ姫』…
ジブリのアニメは非現実の輝かしい空想世界へと連れて行ってくれる夢のパスポートだった。
しかし、そんな作品群の中でも「なんだこれ…?ジブリなのにおもしろくないぞ?」と少年時代の自分が首を傾げてしまうものがいくつかあった。
『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』そしてこの『おもひでぽろぽろ』である。
少年時代は高畑勲と宮崎駿の区別がついておらず、ただ「ジブリ」というアニメブランドがあるということでしか認識していなかった。
そのうち、ジブリでは2人の監督がアニメを作っているということをだんだんと知るようになり、「宮崎駿=超おもしろくてワクワクするアニメを作る人」「高畑勲=ジブリだけど面白くないアニメを作る人」という風に認識していくようになる。
この認識は現在まで続いており、意識的に高畑勲作品は鑑賞してこなかった。
少年時代『おもひでぽろぽろ』には何度も挑戦してきたはずだが、全く内容を覚えていなかった。
覚えていたのは「パイナップル」「生理」「貧乏な男の子」くらい。もしかしたら最初から最後まで鑑賞したのは今回が初めてかも。
それくらい子供の頃の自分にとって『おもひでぽろぽろ』は「ハズレ」だった。
あの頃の少年も、今やタエ子よりも年上になった。
タエ子と同じように、さなぎのような感覚でいる今こそ過去を振り返る時だと思い(…そんなに大袈裟なことじゃないけど💦)、本作を鑑賞してみた。
…最高だった。これほど胸を打つ作品だとは思いもしなかった。
高畑勲の凄さはもちろん知っていたのだが、改めて凄まじい監督だったのだと舌を巻いた。
誰が言ったのか忘れたが、「宮崎駿の後継者は現れるかもしれないが、高畑勲の後継者は現れない」というような言葉を聞いたことがある。
この作品を鑑賞して、高畑勲がいかに破天荒で唯一無二な監督か思い知った。
彼の持ち味は徹底的にリアリティを求めたアニメーションにある。
それはアニメの動きや美術という話に限ったことではない。真に迫ったキャラクター造形や、舞台となる土地のロケーションや文化的背景、歴史へのリサーチということにも及ぶ。
映画の制作にあたり行った紅花農業の研究は専門家ですら目を見張るレベルだったというし、NHKにも映像が残されていなかった『ひょっこりひょうたん島』についても、狂気的な執着心でリサーチし映画の中に落とし込んでいる。
もちろんこのように偏執的にリサーチを行えば、制作時間が延びるのも当たり前であり、本作の制作も遅れに遅れたらしい。
プロデューサーでもあった宮崎駿はあまりの遅さにブチ切れて怒鳴り散らしたらしく、ジブリの名プロデューサー鈴木敏夫曰く、「宮さんのあんな声は、後にも先にも聞いたことがありません。」というほどだったらしい。
しかし、このリサーチこそが映画のリアリティを引き出している。他のアニメーションでは決して味わえない、「これアニメでやる意味あるの?」感を感じることができる😆
高畑勲の強みは徹底的な調査によるリアリティだけではない。
圧倒的な情報整理力こそ、高畑勲作品の魅力である。
この作品でも、無駄な描写は一つとしてない。
前半はほとんどがタエ子の過去の描写になるが、ここで描かれるエピソードの一つ一つは後の展開の伏線となる。
印象的な何の天気が好きかと男の子に聞かれるシーン。
タエ子は曇りと答える。
でも、山形で農業をするタエ子が手を合わせるのは燦々と輝く朝日なんですよね。
また、トシオとの関係が一歩先に進むのは大雨の時。
山形に残る決断をするのは抜けるような青空。
物語が進む印象的なシーンは絶対に曇り空ではないんですよねぇ。
意図的に子供の頃好きだった曇り空を避けることで、タエ子が過去の自分とは違う自分へと成長していることを表している、といえるのではないかしら?
生理のエピソードは紅花作りと農家へ嫁ぎに行く事の隠喩となっているしね。
漫画家つげ義春の作品『紅い花』を思い出したあなたは立派なオタクです。
あと、高畑勲はサンプリングが上手いね!
当時流行の音楽だったり、流行りのテレビ番組だったりを適切な形で作品に引用してくる。
トシオが百姓の音楽だと言ってムジカーシュというグループの音楽をかけたり、エンディングソングに「ザ・ローズ」を持ってくるあたり、高畑勲の音楽の使い方や引用のセンスには脱帽。「愛は花 君はその種子」の歌詞が映画の内容を表しているんすよねぇ。
本作のターゲットは完全にタエ子と同世代の20〜30代。これからの人生どう歩むか、そのことに悩む世代を狙い撃ちしており、そりゃこれを子供が見ておもしろいと思うわけないわな、という感想。
タエ子のいう「サナギ」のような気持ちを抱いている人が見れば刺さること間違いなし!
トシオさんが立派すぎる…ジブリ史上一番イイ男に決定〜!顔も声も完全にギバちゃんだけど。
彼の農業にかける情熱を聞いていると何故か涙が、ぽろぽろ…
彼くらいなにかに打ち込みたいと思わせてくれます。
ちなみにこのトシオというキャラクターは鈴木敏夫のアイデアから生まれたキャラクターだからトシオという名前らしい。
過去を振り返ること、それは先に進むために必要なこと。
新しい何かを始めたくなる一作。
これこそまさに大人の為の映画だ!
成長のバロメーター
何十回と見た作品です。今回は数年ぶりに見ました。
いつの間にか大人のタエ子の年を通り過ぎていました。自分が子供のときは子供時代のシーンにばかり注目がいってましたが、今は大人のシーンに関心がいくようになって、変化を感じました。
昔はおじさんとしか思ってなかったとしおの魅力が分かったり(びっくり!)、結婚を勧められたときの心境、子供の時には分からなかった子供(嫌われ者のあべくん)の気持ちなど理解することが出来るようになって、自分が大人になったことを感じました。
タエ子が5年生を思い出していた理由、としおのタエ子への気持ちなど分からないことはあったので、また何年後かに観ると分かるのかなと思いました。
自分の成長を知るひとつのバロメーター的な映画で、数年おきに観ていきたいと思いました。
これは子供向けでは完全にないが、高畑さんらしい作品。あの時代のなか...
世代も性別も違いますが、タエ子の子供の頃の思い出には共感出来る部分...
ドストライク
世代的には全く違うんですが、小学生の頃を思い出して今の自分と照らし合わせる感触が、自分が感じているものと全くといっていいほど同じで。
というか初めて観たときは小学生だったんですが、人としての幼さとか成長を、性別に関係なく見せられた感じがして、衝撃を受けました。
いつも可愛がってくれる父親にビンタされるシーンは泣けてしまいます。
自分の場合はおじいちゃんに可愛がってもらってたんですが、たまに怒られるとメチャクチャ悲しくて。
過去の自分と未来の自分をつなげる話の作品はよくあるんですが、これほど完成度の高い作品は観たことがありません。過去の回想が現在の人間関係の形成に影響を与え、逆に過去の出来事を思い出すという流れが非常によく出来ています。
大人になってから分かるこの映画の良さ
昭和の香り漂う作風に、妙にホッとさせられたと言うか、回想シーンなんか私は全然生まれていない時代なのに何故か懐かしいと思わされたりで、とても心安らげた作品でした。
おそらく劇中で描かれた時代に生まれていようが生まれてなかろうが、高畑勲監督の温かみのある絶妙なタッチによって、昭和生まれならどの世代でもある程度懐かしいと感じられるような作品になっていたのではないでしょうか。
これは実写とはまた違う、アニメだからこそ出せた味だった気がしましたね。
それと昔見た時は正直そこまで面白いとは思えなかったのに、今になって見てみたら、この作品に対する思いは全く違うものになっていて、今回は思いっきり感情移入させられてしまいましたよ。
ある程度大人になると、自分を省みると言うか、自分と向き合う時間って絶対必要なんですよね。
この映画では、小学5年生の自分を引き合いに出して向き合っているのが、何とも絶妙と言うか上手いなと思いました。
何のしがらみも無くわがままにできたギリギリの年頃、だからこそ忘れていた何かがそこにあると言う感じで、自分の小5時代も思わず思い返してしまいました。
あんなクラスメイトいたよなぁとか、兄弟げんかあるあるとか、本当に懐かしい。
さすがに脱脂粉乳の味は私は分かりませんでしたが、そんなに不味いものなんですね(笑)
パイナップルのシーンも好きだなぁ、確かに初めて食べたパイナップルはあんな感じでした!
昭和の小学校的甘酸っぱい恋の話も良かったですね、昔は大体あんな感じになりましたもんねぇ・・・。
まあ全体的に私もかなり面倒臭いタイプの子供だったので、タエコの言動に激しく共感しました(分数のところとか特に)
そんな子供時代と向き合う現代のタエコの設定が27歳だったのは、画や今井美樹の声の雰囲気といまいちマッチしていなかったようで少々難点だったかなと。
しかもトシオはもっと年下なんですもんね、まあ柳葉敏郎の訛り具合は味があって良かったですけど。
ただ大人になってからも普通じゃなく面倒臭いタイプのタエコを見ていると、何の脈略もないような回想シーンも何気に上手い具合にリンクしていたようで、思わず感心させられましたね。
ラストシーンもエンドロールも良かったなぁ、ジブリ作品では地味な扱いの本作ですが、子供の時は何とも思わなくても大人になってからもう一度見てみたら、きっとまた違った感動を得られる作品だと思いました。
映画完成から、25年 紅花作りのモデルとなった方の息子さんや映画コ...
面倒臭い人
落ち着いていて、良いかんじ。
都会で働くタエ子が、休暇で田舎の親戚の家の農作業を手伝いに行く。その過程に小学5年生の自分を断片的思い出し、今の自分につなげていくお話。
私が一番感動したのは、子供の頃のやるせなさをうまく描けているところ。子供の頃の、けして明るくなく、何事にも一喜一憂していた、もやもやした不安定な気持ち。きっと誰もが持ち合わせている、子供だからこその感情がうまく描けていた。
大人になったタエ子は、もはや昔過ぎて定かではない記憶を、次々と思い出しては笑い飛ばしていく。
しかし、物語の最後に思い出した記憶だけはタエ子の心に深く入りこみ、そして彼女のその後の人生を肯定していくヒントになる。
親戚の人が言う、「手つかずの自然に思える田舎の風景も、人間が作ったものなんだ。」というセリフが印象に残りました。
おすすめです。
田舎の風景は人間が造ったもの
心があたたかくなる作品。
小学生くらいに見て内容もあまり覚えていないのに強烈に印象に残ってる作品。
改めて見たのですが、また違った意味でとても素敵で印象に残る作品です。
自分が小学校の頃、幼い頃を思い出しました。あ〜自分もこんな頃があったなあと。
そして、セリフがとても素敵です。とっても深い。
エンドロールが特に素晴らしいです。
心がとってもあたたかくなりました。
大人に見て欲しいジブリ作品です。オススメです。
大人な恋。
小5の彼女と大人の彼女の話との繋がりが弱い
総合65点 ( ストーリー:60点|キャスト:70点|演出:80点|ビジュアル:75点|音楽:75点 )
子供時代ってこんなことあるよなとか、どこの小学生も似たり寄ったりなんだとか、観ていてそんな場面が散りばめられている。その演出がさりげなく自然で上手。特に、色が水彩絵の具で描かれた絵のように優しく淡く抜けて夕陽の差し込む帰り道、意識している男の子と声を交わして天に駆け登っていく場面が面映い。
一方で大人になったタエ子の話と、これらの昔の話の繋がりがわからない。昔を思い出すのはいいが、子供のころの話を一つ一つが全て現代の話に繋がっているわけではない。そのために二つの話を同時進行にしたときには、嫌いな食べ物があったり温泉に行ったり家族ともめたりといった、タエ子の小学生時代のありふれた日常生活をひたすら見せられてもそれがいったいどうしたのかと感じてしまう。過去の話の一部は現代のタエ子にとても重要だけど、小学五年の彼女だけが現代の彼女を形作っているわけでもない。小さな思い出話をいくつも集めていても全体の流れとしての一体感がなくて、その意味で無駄な尺が多すぎて全体が間延びした印象をもってしまう。いくつかの枝を良く見ていても、木全体をうまく眺められていない感じがする。
頬の豊齢線はタエ子を27歳よりも相当に老けて見せてしまっているのは残念だが、全てがそうではなくても絵は時々細かく書き込まれ美しさを見せてくれる。ハンガリーの農民の歌など音楽も独特でいい。細かい時代設定など凝っているのがわかる。過去と現代の物語の繋がりの弱さ以外にも、全体として物語は地味で抑揚が少なくてそれほど引き込まれるわけではないが、人物の動きや感情といった描写の質はけっこう高い。途中でやや退屈な部分もあるけれど、最後はあっさりながら子供たち総出演で大人の彼女を後押しして綺麗にまとめてくれた終わり方ですっきりした。
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