「新しい物語が始まるまでの切ない別れ…」男はつらいよ 寅次郎の青春 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
新しい物語が始まるまでの切ない別れ…
シリーズ45作目。
OPの夢は、
明治。文豪・車寅次郎の下に、甥の満男が恋人の泉と共に駆け落ちしてくる。文武両道の寅次郎は追っ手を撃退し、若い二人の恋路を手助けする…。
サイレント映画風に、ドストレートにここ数作を表したような夢。
尚、OPの夢は本作が最後になった。
泉が東京のCDショップに就職して半年。仕事は大変だが、休みの前日は満男の家によくお邪魔したりして、依然良好な関係。
中学時代の友人の結婚式に出席する為、泉は有休を取って宮崎へ。
その宮崎にて。
港町の油津で理髪店を営む蝶子は、「何処かにええ男おらんじゃろか」と嘆く。
すると、
「お姉さん、その男、俺じゃダメかな」と声を掛ける四角い顔の粋な男。
蝶子の店で散髪して貰う。
心地よい空間、気持ちいいくらい手慣れた散髪、ほんのり甘く、官能的なひと時…。
前年(91年)日本でもヒットした『髪結いの亭主』をモチーフ。
マドンナ・風吹ジュンも堪らなく色っぽい。
蝶子は船乗りの弟・竜介と二人暮らし。ギターも弾ける今風の色男。演・永瀬正敏。
突然のどしゃ降り。雨宿りのつもりが、蝶子の家に長居。
そして、油津に来ていた泉とばったり再会する。
ある日、寅さんが(大した事無い)怪我を。
泉が電話で報せ、満男は慌てて宮崎へ。…が、本当は伯父さんの事はどーでもよくて、泉に会いに行きたいだけ。
ところが、来てみてがっかり。
泉と竜介がやけに仲がいい。
あからさまにふて腐れ、不機嫌になる満男。
初めて現れた恋敵に嫉妬。
…と思いきや、
竜介にはフィアンセが。
途端に機嫌がよくなる満男。う~む、伯父さんそっくり。
初めての恋敵や嫉妬でなかなか進展しない満男と泉の恋路にひと波乱起こるかと思ったら、さほどでもなく。
寧ろもう一つの心配は、寅さんの方。
蝶子にはある想い人が。何年か前に店にやって来た一人の男。「俺と一緒にならないか」と声を掛けられ、その時は返答出来ずにいたが、また店に来たら、答えは決めている。が、それ以降…。
そんな時現れたのが、四角い顔の粋な男。
(大した事無い)怪我も良くなり、柴又に帰る事を決めた寅さん。
急に怒り出す蝶子。密かに寅さんに想いを。
無論寅さんは何事も無いまま、柴又へ。
不器用な甥の恋路に嘆くが、自分も然り。
尚、ラストで蝶子の思わぬその後が語られる。
泉の母が入院する事に。再び有休を取って名古屋に帰ろうとするが、職場はそれを認めない。
悩んだ結果、泉は仕事を辞め、名古屋に戻る事を決める。また母親と暮らし、名古屋で就職する事も。
東京駅に駆け付ける満男。これまで一緒に居ながら、何もしてやれなかった事を悔やむ。母親の為に自分が犠牲になる事はない、と。
母子家庭の事情。泉の決心は変わらない。
惹かれ合っているのに、このどうしようも出来ないもどかしさ…。
発車直前。物陰で初めて交わしたキスが切ない。
いつもならエンディングの正月には訪れていた泉。が、今回は…。
4作続いた満男と泉のラブストーリーは、一旦の終了。
満男は決意する。また泉と再会した時、新しい物語が始まる事を。が、その胸中は本当は…。
そして二人はシリーズ最終48作目で再会し、遂にその恋路に決着が付く。
本作にはもう一つ、忘れてはならない事が。
第1作目から、寅さんを時に厳しく、時に温かく見守ってきた御前様役の笠智衆が、本作が遺作に。
最期の出演シーンは茶目っ気たっぷり、ユーモラスに。
実家が寺で、本人も住職をしていた事もあり、人柄も役柄も有り難みも全て含め、御前様は笠智衆さんそのものでした…。
近大さん、毎度です。
残り3作、きっちり見て試写会に臨もうと思ってます。
これが笠智衆の遺作だったのですね。感慨深いです。
最後に床屋の話題をしてたのが印象的。源ちゃんの剃り方じゃ傷がいっぱいできそうで痛々しかったです・・・w