「【”カミカゼとハラキリではなく、国を越えて人に優しく粋な人達が住むとらやにアメリカ人がやって来た。”今作は寅さん流、優れたる日米文化比較論をベースに構築された面白くて、心に沁みる逸品である。】」男はつらいよ 寅次郎春の夢 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”カミカゼとハラキリではなく、国を越えて人に優しく粋な人達が住むとらやにアメリカ人がやって来た。”今作は寅さん流、優れたる日米文化比較論をベースに構築された面白くて、心に沁みる逸品である。】
■今作は、資料を見ると脚本にレナード・シュレイダーが参加している。成程。日米文化比較論を基調に、国を越えての友情や日本人の根本的気質である困った人を見たら親切にする文化が見事に盛り込まれた作品である。
ー ビタミン剤のセールスマンとしてやって来たアメリカ人マイケル・ジョーダン(名前が凄い。バスケのマイケル・ジョーダンが脚光を浴びたのは今作の後だから、偶々なのか、良くある名前なのか・・。演じたのは長身で日本語が喋れてチャーミングな男、ハーブ・エデルマン)は薬が売れなくてお金が無くてホテルに泊まれないが、窮状を見た御前様(笠智衆)がとらやの人達に”寅さんの部屋を貸してやれないか”と言い、気の良いとらやの人達は困惑しつつも、優しくマイケルを迎え入れる。
そして、とらやの人達は彼をマイコと呼んで仲良くなるのである。
心優しき良き人達である。ー
◆感想 <Caution!内容に触れています。そして今作の特に好きな所を記す。>
・寅さんが、二階の自分の部屋にマイコが居ると知り、更にさくらにアメリカ人なりの接し方をする姿が気に入らずに激怒するが、満男の英語教室の先生めぐみ(林寛子)に事情を説明され、とらやを出て行こうとするマイコを呼び止め握手するシーン。その後、二人は一緒に飲みに行き、更に親密になるのである。
この一連のシーンは寅さんの人間力や器の大きさを示すとともに、彼の人間的な優しさは国境を越えている事を示すシーンだと思う。
・序でに言えば、マイコの商売や身なりが最後まで寅さんに似ている設定も絶妙に可笑しい。
・マイコが、優しいさくらが布団を一生懸命に敷いてくれる姿や、控えめな物腰を見て、彼女に徐々に惹かれて行く姿も、何処か寅さんに似ている。
・だが、寅さんと決定的に違うのは、マイコはさくらにストレートに”I Love You"と言ってしまう所である。
当然、さくらは”Impossible. This is Impossible”と言い、その後寅さんにそのことを言うが、寅さんは懸想していためぐみの母(香川京子)に良い人が居ると知った後だった事も在り、マイコの想いを察し”勘弁してやってくれ。”とマイコを庇うのである。
このシーンも、寅さんの絶対的な人間肯定的な性格を示していると思うのである。
<今作は、寅さんシリーズの中でも異色の一品かもしれない。
だが、マイコを演じたハーブ・エデルマンの名演や(アメリカ人で、あの役をこなすのは相当に難しかったと思うからである。)寅さんの絶対的な人間肯定的な優しき性格が、国境に関係なく発揮される数々のシーンが、私はとても好きなのである。
ルース・ベネディクトの「菊と刀」を読むより、今作を観たほうが余程、日米文化比較が出来るのではないかな、と思った作品でもある。>