「アメリカの男もつらいよ」男はつらいよ 寅次郎春の夢 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの男もつらいよ
シリーズ24作目。
やっとこさ半分!
OPの夢は、サンフランシスコのチャイナタウン。流れ者の寅次郎が逃げた着いた先の酒場で生き別れた妹と再会するも、ギャングに追われ…。
序盤の騒動は、“ブドウ騒動”(かの“メロン騒動”ほどではないが、こちらもなかなかケッサク)と、満男が英語塾に通ってる事から起きる“英語騒動”。
さて今回、何故ちとアメリカ色かと言うと…
とらやには毎回色んな人がやって来るが、今回は意外過ぎる人物。
アメリカ人のマイケル。
アメリカから来たセールスマン。が、商売の方は全く売れず(彼が売っているのは、今で言うサプリメント)、日本語もほとんど解らず、泊まれる所も見付からず、疲れ困り果てていた。
この当時の日本は今ほど国際交流に程遠く。
英語で話し掛けられたり、外国人と対するだけで、怪訝・敬遠。
当時の日本の外国に対する距離や考えを風刺的に表している。
訳アリのマドンナならまだしも、外国人…。
さすがのとらやも最初は困惑するが…
しかし、ひと度知り合えば、日本人だろうと外国人だろうと人と人同士。
身体はデカいが、心は優しいマイケル。
とらやもすっかり彼の事を気に入る。
最初は日本にウンザリしていたマイケルだったが、遠い異国で親切な人たちに出会えて、感謝感激。まるで、家に帰ってきたよう。
とらやの2階で暮らす事になり、平和的な国際交流。
幸せだった。あの男が帰って来るまでは…。
マイケルを演じるは、映画やドラマでコメディを中心に活躍していたアメリカの俳優、ハーブ・エデルマン。
『ザ・ヤクザ』にも出演するなど日本とは少なからず縁アリで、ユーモラスで哀愁滲ませる好演。
脚本にもアメリカ人が。レナード・シュレーダーは『タクシー・ドライバー』の脚本家で知られるポール・シュレーダーの兄で、『ザ・ヤクザ』の脚本も担当、『蜘蛛女のキス』ではアカデミー脚色賞にノミネートもされている。
さてさて、寅さんはアメリカの事をどう思っている…?
大っ嫌い!
一方的な偏見で、今なら問題発言・人種差別レベル。
もし、二人が顔を合わせたら…。
遂にその時が来た。
太平洋戦争以来の、日米開戦勃発!
でもこれは、誤解や説明不足であった。
寅さんは人情の男である。しかも、同じ商売人同士。
寅さんとマイケルもひと度分かり合えば…。
カルチャー・ギャップや他国同士のいざこざ、国際交流…。
今のグローバル社会を先見していたかは不明だが、当時の日本の見方で興味深い。
寅さんの人情世界と巧みに絡ませ、天晴れでもある。
日米珍騒動が見所で、恋の方は…?
勿論。
マドンナは、満男の英語塾の先生の母親。演じるは、香川京子。(娘役は林寛子)
母娘共にアメリカで暮らしていた事もあり、英語が流暢。
寅さんとマイケルとマドンナの三角関係に…?
いえいえ、寅さんはマドンナにのぼせ上がるが、マイケルが恋するのは意外な相手!
さくら。
マイケルの気持ちも分からんではない。
だってさくらって、普通に美人で魅力的だし、優しく誰に対しても親身になってくれる。
もしさくらが血の繋がりの無い赤の他人だったら、寅さんは確実に惚れているだろう。
さくらはシリーズで一番の真のマドンナだと思っている。
寅さんの恋路はいつもながら。
さくらとマイケルの方は…。
クライマックス、マイケルが愛の告白をし、それにある応えをするさくらは、本作のハイライト。
エンディングでは寅さんからハガキが送られてくるのが定番だが、今回はアメリカに帰ったマイケルから。文面が寅さんと全く同じというのが笑わせる。
失恋し、故郷に帰ってからも売れない商売の旅。
アメリカの男もつらいよ。