「平凡な営みと自由気ままな旅暮らし…どちらが幸せか?」男はつらいよ 寅次郎恋歌 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
平凡な営みと自由気ままな旅暮らし…どちらが幸せか?
シリーズ8作目。
寅さんが近所でバカにされ、今度帰ってきた時は明るく迎えてやろうと、とらや一同。
程なく帰ってきて、とらや一同はヘンに明るく迎えるが、それがかえって寅さんの気に障る。
いきなり険悪ムード。
酒を飲みに行った寅さんは昔の商売仲間と会い、とらやに連れてきて大騒ぎ。
さくらに酒を注がせ、おいちゃんは怒り心頭。
さらにはさくらに何か歌え!とまで。
さくらは歌う。その悲しい歌声が胸に突き刺さる。
愚かしき事の数々の寅さんだが、この時ばかりは同情も弁護も出来ない。本当に愚か。
妹の悲しい歌声を聞いて、さすがの愚兄も目が覚める。
俺は何てバカなんだ…。
今回は一日も滞在せず、あっという間に旅へ。
ひろしの母が死去。
ひろしはさくらを連れて実家に戻る。
家族だけの通夜の席で、父と長男と次男は、在りし日の妻/母を偲ぶ。
欲も無く、夫や子供たちに尽くし、日本女性の鑑だった、と。
ひろしはそれに反論。
昔ひろしは母の夢や本音を聞いた事があり、それらを全て諦めた可哀想な人生だった、と。
亡き母は幸せだったのか、不幸せだったのか…?
葬式に寅さんがやって来る。
厳粛な雰囲気に、ついついおふざけ。
遺族一同の写真を撮る際、「笑って~」と言ってしまい、さくらに咎められ、仕切り直しての「泣いて~」は迷台詞(笑)
それから暫く、ひろしの父の家に厄介になる寅さん。
元大学の先生で真面目で堅物で面白味の無いひろしの父と、自由気ままな寅さん。
ミスマッチのように思えて、何故か妙に気が合う。ひろしの父も寅さんを気に入ってるよう。
そろそろお暇しようとした時、自由気ままな旅暮らしの寅さんに、ひろしの父はある話を説く。
昔、夜の田舎の田んぼのあぜ道を歩いていたら、庭にりんどうの花が咲いたある一軒家で、明るい電灯の下、家族が水入らずで夕食を食べている。
これが人の営みの本当の幸せではないのか。
人は絶対に一人では生きられない。
影響を受け易い寅さん。平凡な営みに逆らってきたこれまでを改めて考え直す。
柴又に帰ってきて、人並みに生きる事を宣言。
でもそれには、家庭があってこそ。
何処かに居ないかね。30代ぐらいの美人で、手の掛からないような子供が居るような女性が。
…いや、ちょうど居るんだな。
お寺の近くに新しく出来た喫茶店。
店主は少々苦労も滲ませる色気のある30代ぐらいの美人で、夫とは死に別れ、女手一つで息子を育てている。
マドンナは、池内敦子。
とらや一同、またまた頭が痛い…。
マドンナは気苦労が絶えない。
息子は自閉症。
が、寅さんと遊んだ事で友達も出来、明るく元気に活発になる。
喫茶店の経営の事で、お金の問題。
こればっかりは寅さん、どうしてやる事も出来ない。
ある夜の、寅さんとマドンナの対話。
寅さんはマドンナに、平凡な営みこそ幸せと話す。
マドンナは寅さんのような自由気ままな旅暮らしに憧れる。
何もかも捨てて、旅に出たい、と。
それを聞いて寅さんは…。
今回は寅さんは身を引いた。
あっしのようなろくでもない生き方はいけませんぜ、とでも言うように。
寅さんにとっては、周りの人々の平凡な営みこそ幸せ。
周りの人々は、寅さんのような自由気ままな生き方をしてみたい。
人の営みとは…? 幸せとは…?
いつもながら笑わせつつ、今回は本筋もサブエピソードもしみじみしんみりとさせる。
個人的に、初期の作品の中でも出色の一本!
おいちゃん役の森川信が翌年に死去した事により、本作が最期の出演に。
「あ~、ヤダヤダ」
「まくら、さくら出してくれ」
でも、何と言っても、「バカだねぇ…」。
ユーモア入り交じりの嘆きとぼやきの言い回しは、初代森川おいちゃんが絶品であった。