海と毒薬

劇場公開日:1986年10月17日

解説

太平洋戦争末期、米軍捕虜八名を生体解剖した事件を二人の研究生の目を通して描く。原作は遠藤周作の同名小説、脚本・監督は「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」の熊井啓、撮影は楢山節考」の栃沢正夫がそれぞれ担当。

1986年製作/123分/日本
原題または英題:The Sea and Poison
配給:日本ヘラルド
劇場公開日:1986年10月17日

あらすじ

昭和20年5月、敗戦の色はもはや隠しようもなく、九州F市にも毎晩のように米軍機による空襲が繰り返されていた。F帝大医学部研究生、勝呂と戸田の二人は、物資も薬品もろくに揃わぬ状況の中で、なかば投げやりな毎日を送っていた。だが勝呂には一人だけ気になる患者がいた。大部屋に入院している“おばはん”である。助かる見込みのない貧しい患者だった。「おばはんは、おれの最初の患者だ」と言う勝呂を、リアリストの戸田は、いつも冷笑して見ていた。そのおばはんのオペ(手術)が決まった。どうせ死ぬ患者なら実験材料に、という教授、助教授の非情な思惑に、勝呂は憤りを感じながらも反対できなかった。当時、死亡した医学部長の椅子を、勝呂たちが所属する第一外科の橋本教授と第二外科の権藤教授が争っていたが、権藤は西部軍と結びついているため、橋本は劣勢に立たされていた。橋本は形勢を立て直すために、結核で入院している前医学部長の姪の田部夫人のオペを早めることにした。簡単なオペだし、成功した時の影響力が強いのだ。ところが、オペに失敗した。手術台に横たわる田部夫人の遺体を前に呆然と立ちすくむ橋本。橋本の医学部長の夢は消えた。おばはんはオペを待つまでもなく空襲の夜、死んだ。数日後、勝呂と戸田は、橋本、柴田助教授、浅井助手、そして西部軍の田中軍医に呼ばれた。B29爆撃機の捕虜八名の生体解剖を手伝えというのだ。二人は承諾した。生体解剖の日、数名の西部軍の将校が立ちあった。大場看護婦長と看護婦の上田も参加していた。勝呂は麻酔の用意を命じられたが、ふるえているばかりで役に立たない。戸田は冷静だった。彼は勝呂に代って、捕虜の顔に麻酔用のマスクをあてた。うろたえる医師たちに向かって「こいつは患者じゃない!」橋本の怒声が手術室に響きわたった……。その夜、会議室では西部将校たちの狂宴が、捕虜の臓物を卓に並べてくり広げられていた。その後、半月の間に、次々と七人の捕虜が手術台で“処理”されていった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第37回 ベルリン国際映画祭(1987年)

受賞

銀熊賞(審査員特別賞) 熊井啓
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映画レビュー

4.0 【今作は、神の采配により、大いなる罰を受けるべき大学病院医療関係者の非道極まりなき行為を淡々と描いた作品であり、如何なるホラー映画よりも震撼する作品でもある。】

2025年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

知的

ー ご存じの通り、今作の原作は、クリスチャンであった遠藤周作の同名作であり、上梓後に世間から激しい賛否を浴び、彼が失意の中続編執筆を止めた問題作品である。
  氏は、その作品で命の尊厳と医療の闇を描いたと私は思っているが、激しく糾弾した人達の考えは違ったようである。-

■粗筋
 太平洋戦争末期。
 敗色も濃厚となった昭和20年春。九州の大学病院で研究中の医学生、勝呂(奥田瑛二)と戸田(渡辺謙)は自身の研究と患者の治療に追われる日々を送っていた。
 そんなある日、2人は或る教授から米軍捕虜の生体実験に参加するよう申し付けられる。

◆感想<Caution!内容に余り触れていません。>

・今作を観ていると、日本人と言う大和民族が持つ、集団心理の恐ろしさをひしひしと感じる。それが、顕著に出たのが、大日本帝国軍の大東亜共栄圏思想である。
 表向きは、亜細亜の連携を謡いながら、実態は朝鮮の民、中華の民に対する数々の非人間的な行為の数々を行った歴史的事実である。
 その思想は、敗戦により表向きは無くなった風を取ってはいるが、いまだに時折、右の思想を持つ老人国会議員による、信じがたき発言として、発露しているのである。
 彼らは、自らの発言に対し、世間から激しい怒りを浴びる事で、
 ”え、私はそんなに悪い事を言ったのかな?”
 と本心では思いつつ、表面的には謝罪の意を表し、そのまま国会議員として居座っているのである。
 今作で、非道な行為を行いながら、朝鮮戦争勃発により罪を逃れた九州の大学病院の教授や戸田の様に・・。

・似た気質を持つ民族が、もう一つある。
 ご存じの通りアーリア人種至上主義を掲げ、ユダヤの多くの民を死に追いやった民族である。
 この民族と大和民族には幾つかの共通点があり、且つ彼の大戦でも同盟を組んでいるのは、周知の事実である。

・世界各国では、一定比率でサイコパスが現れ大量殺人を犯すが、民族そのものが選民思想に基づき、他民族を虐殺に追いやったのは、上記二民族と、アフリカの一部の民族だけである。
 上記二民族は、今作の九州の大学病院の教授や戸田の様に、何の罪悪感も無く、神の采配により、大いなる罰を受けるべき非道なる行為を歴史的に行って来たのである。

<今作は、神の采配により、大いなる罰を受けるべき大学病院医療関係者の非道極まりなき行為を淡々と描いた作品であり、如何なるホラー映画よりも震撼する作品でもあるのである。瞑して観るべき作品であろう。>

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NOBU

4.0 若き日の奥田瑛ニさんと渡辺謙さんが狂気の医学生を演じる

2025年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

怖い

驚く

斬新

遠藤周作著の小説『海と毒薬』は中高生の頃、父から「お前にはまだ早い」と読むのを控えさせられていた作品でした。
以来、何十年も興味を持たないようにして来た作品で、今回、渡辺謙さんの若い頃の作品で映画があるというので、齢50を過ぎて初めて映画で「海と毒薬」のストーリーを知りました。

ショッキングな内容で、亡き父が高校生の私に読ませたくないと考えたのも納得しました。

戦争中に九州大学医学部の病院で実際に行われた米軍捕虜生体解剖事件の話で、人道的に問題のある、日ごろは理性や良心で抑えられている人間の蛮性を「戦争」が解放して、常軌を逸した行動を「正義」だと考えるようになる人間の思考の偏向の恐ろしさを、淡々と描いた描いた作品でした。

チスの人体実験のようなことをやっていたされる731部隊があったことが記録や証言によって明らかになっていますが、戦後日本でヒットした小説の内容がこれかあ…と軽くショックを受けました。昭和を生きた戦中派の皆さんにとっては、「戦時下の狂暴な思考」は他人事ではなく、身近な狂気として、冷静に受け止めていたのかなと思いました。

映画としては、若い頃の渡辺謙さんと奥田瑛二さんが戦時中の医大生で出演されており、金妻に出る前の奥田さん、独眼竜政宗に出る前の渡辺謙さんの、20~30代のお二人の演技が見もので、タイムトラベルをしたような変な感覚があって、渡辺さんはサイコパスな軍部の考えに違和感なく染まっていく医学生を、奥田さんは米軍捕虜の生体解剖に否定的な考えを持ち、良心の呵責に苦しむ医学生をそれぞれ演じておられて、怖いやら苦しいやら。

オールモノクロで、撮影場所も当時はまだ戦前の建物や景色が日本に残っていたんでしょうね、本当に戦前の映画を、「君の名は」や「また逢う日まで」の時代の映画を観ているようで、よく知った俳優さんたちが亡霊のようにみえたり、悪夢を見ているような感じでした。戦争がない時代に生まれて、戦争をしないと宣言した国に生まれてよかったです。

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山川夏子

4.0 実話!

2025年1月2日
PCから投稿

本作の最大の怖い部分は実話ベースの物語というところです。
生々しくて、おどろおどろしく、見る者の心を引きずりこみます。

またこれから病のためもうすぐ死ぬ『おばはん』に対して主人公はブドウ糖を舐めさせ「うまかろ?」と聞くと、「うまかああ」と答える『おばはん』には泣いてしまいました。

またこの映画を見る前に原作も見ているのですが、原作と映画では大まかなストーリーは同じですが、かなり大部分をカットしています。
原作では「主人公は別にいて、その主人公が自分を診てくれた医者の過去を探る」というストーリーでしたが映画では主人公をばっさりカット。その医者を主人公とした過去の話しだけになっています。
でも映画はばっさりカットして正解だったと思います。なぜなら分かりやすく、テーマが視聴者に伝わるからです。

非常にいい映画でした。

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みる

5.0 臓器が重くなった錯覚をおぼえた

2023年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

あまりにも重い真実。
そして当時あまりにも軽かった人間の命。

空襲がどうの原爆がどうのと
説得している言葉は言い訳に過ぎない。

この事件が起きた、あるいは被害者の立場は
戦争だからってのも
もちろんあるけれど
社会的図式は現代だってありえる構造ではないだろうか。

学校でも会社でも、病院でも
それぞれの社会の中で
組織に組み込まれて流され、感覚が麻痺し…。
殺人事件でなくたって
加害者にはいつだってなりうる。
または被害者にも。

生々しい手術シーンに吐き気も覚えたし
見終わったあとも息するのさえも苦しく
内臓がもったりと砂でもつまったように重くなった気がした。

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ひよこまめぞう