「タイトルなし(ネタバレ)」雨月物語 まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
とっても良かった。
牡丹灯籠、耳なし芳一、安珍清姫などがミックスされたようなストーリーで、日本の怪談と歴史物の要素もある、戦後8年目に作られた戦争の話。70年も前の作品だけど、ちっとも退屈じゃなかったし、根源的なことが描かれていて普遍性がありました。人間が生きることに必死なところが一番引き込まれました。映像技術やら色々なものが進歩したのでしょうけど、今の時代、こういう作品は作れない。
画面は白黒で幻想的な雰囲気があって音も少なめ、照明や構図の美しさに感心しました。あ〜作り込んでるなぁ、絵みたいだなぁとウットリ…舞台でお芝居してる雰囲気がそのまま映画になってる感じ。
一番好きなのは、最後に田中絹代が、着物の袖で静かに目頭を押さえる仕草。さりげないけど、見ている方はズキーンと来てたまらなかった。その後、草鞋を合わせてそっと泥を落とし、旦那を寝かせてから蝋燭に火を灯し、繕い物を始める。「奥さん生きてたのかな…これも幻かも?夢なんじゃ?」と見ているけど、これらの生活感ある動作が流れるように続くため、ちょっとだけ期待しちゃったんですよね。
でも、旦那が翌朝目を覚ます最初の画面で、一瞬で「あっ」と気付く。窓辺に蜘蛛の巣が映り込んでいるので。悲しみが一挙に押し寄せて持っていかれました。上手〜と思ってしまった。
京マチ子は言わずもがな妖艶で素晴らしかったけど、お付きの婆さまがど迫力。彼女が居なければお姫さまの恐ろしさも半減したのでは。文句をつけるとすれば、お姫さまが舞を舞うシーンだけ、腰から上ばかり撮ってましたが、舞は全身も入れて欲しい!!全身!!
金儲けや出世欲を悪いことみたいに描いてるところは日本的。欲なんて出すもんじゃない、つつましく、真面目にコツコツやんなさい、みたいな。開拓精神は悪いことばかりではない。ただ、制作された時代を考えると、貧しくても命があること、家族が笑って過ごせること、普通の生活が出来る有り難みは、第二次大戦を経験した観客には説得力しかなかっただろうと思う。