「隙間に寂しさがある」浮草 こまめぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
隙間に寂しさがある
小津と言えば低い位置の固定カメラ、なイメージが強かったが、こちらはそこまで低くもない。むしろ見易い。
当時旅芸人の立場が随分と低かったのだろうことは分かる。
そんな時に公的機関郵便局に務めるなんて、そりゃあもうご近所さんでも評判のエリート扱いだ。
お前らとは人種が違う、と罵倒されたすみこが腹を立てて企てる訳だが、なんて酷いことを言うのだと鑑賞してても思ったものの、実の父だと言い出せないあたり、誰よりも罵倒した当人が己を恥じているという悲しさがある。
しかし描き方は俺だって辛いなど喚きもせず。
カメラは少し距離を置く。言葉にはしないけれども、眺める空間や影に寂しさが漂っている。
美しい。胸に迫るものがある。
それぞれみな胸に抱えるものがあっても、日々はあっけらかんと軽口を交わして過ごしていく。それが大人というものだろう。いちいち説明しなくても、互いにあなたの辛さは分かっていますよ、という心の触れ合いのようなものがそこにはある。
誰もが我慢を強いられた時代だったからこそ、他人にも寛容だったのかもしれない。
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