劇場公開日 1971年9月11日

「無名塾の『いのちぼうにふろう物語』を観て」いのちぼうにふろう kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5無名塾の『いのちぼうにふろう物語』を観て

2022年10月2日
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鑑賞方法:VOD

 能登演劇堂での公演を観る前に予習の意味で映画版を鑑賞。もちろん生の演劇に圧倒され、涙が止まらなかったのですが、劇が訴えてくる生きることの意味を痛感し、仲代達矢と故宮崎恭子の愛した脚本という意味もわかる。

 舞台では安楽亭の親方を89才の仲代達矢が演じていたが、1971年の映画では中村翫右衛門が演じている。女嫌いで無法者の定七を仲代が演じている。両者とも迫力があり、後半に語られる母親のエピソードが富次郎の許嫁でもあったおきわに被って見えてくるのです。父親に吉原へ売り飛ばされるという不幸が目に見えるようでもあり、定七と与兵衛の男気が感じられる瞬間。命を賭してまでおきわを思う心が彼らに心の変化を与えたのだ。

 公権力が強くなれば強くなるほど密輸業者が生まれてくる。いつの世も悪政に悩まされ、泣くことになるのは庶民だ。腕っ節が強い者がそうした無法者になる道理もわかるし、長いものに巻かれる八丁堀としても板挟みとなって無難に過ごそうとするものだ。

 傷ついた雀もまた富次郎とおきわの姿を見ているようで、心が大きく動いた定七。自分の作った地蔵によって日にちを知るおみつの心も泣けてくる。クライマックスの描き方は舞台版が圧倒的だったため、つい映画の方の評価も下がってくるが、かなりリスペクトに富んでいるのも確かなこと。二人の未来に安堵するものの、恨めしくも感じられるおみつの気持ちにも心打たれてしまった。

 尚、舞台では灘屋の手引きをするのがお京という女性で、定七に結婚を迫るというエピソードもいい改良点だったと思う・・・原作は知らないけど。

kossy