有りがたうさん
劇場公開日:1936年2月27日

劇場公開日:1936年2月27日
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神保町シアター、桑野通子&みゆき親子特集
2014年11月30日ぐわんぐわんと揺れるバス、そして乗客。こういう立体感のある動きを撮るメソッドが1936年にして既に確立されていたことに驚く。
わずか20数個の宿を巡る間にも、無数の人々の存在が立ち現れ、交差し、やがて消えていく。東京に売られていく村娘、身勝手な髭親父、訳知り顔の女。乗合バスというごく限られたシチュエーションにもかかわらず、物語には奥行きと説得力がある。わずか一言二言を口にしてバス(=物語)を降車した人々にさえ有機的な残香が感じられるというのは本当にすごいことだと思う。
好きなシーンはいくつもあるが、知人の結婚式に向かう夫婦と葬式に向かう老爺がうっかり車内で鉢合わせてしまうシーンが一番好き。夫婦は「縁起が悪いから」と言ってバスを降りるのだが、老爺もまた「さっきの夫婦には申し訳ないことをした」と言ってバスを降りる。滑稽と人情とが絶妙な塩梅で混じり合った名場面だ。
そういえば先日、レンタカーで都内を走っていて合流待ちの車に道を譲ることがあった。その車はこちらに何の謝意も見せることなく、一気呵成に加速してそのまま視界から消え去ってしまった。ありがとうくらい言ったらどうなんだよ、と思わず不貞腐れてしまった。
これは「みんなもっと有りがたうさんを見習えよ」という話ではない。むしろ逆だ。有りがたうさんは歩行者や馬といった無数の障害物に進路を阻まれているにもかかわらず、それらに悪態をつくどころか、彼らがほんの少しでも道を譲ってくれたことに対して「ありがとうー」と感謝の言葉を返している。
見返りを求めることなく素朴な感謝を振りまくことができる彼が、街道沿いの人々から絶大な信頼を得ているというのも至極頷ける話だ。彼ならたとえ目の前で割り込み運転を食らってもニコニコと微笑んでいられるだろう。そのくらい超然とした生き方ができるようになれば素敵だろうな、とは思うものの、本作を通してなんだかんだ一番共感できたのはやっぱりあの姑息で傲慢な髭親父なんだよな…
名作です
1936年の作品ですから84年も昔です
いくら田舎の乗り合いバスといえど、車内での乗客同士、運転手との会話は濃密です
21世紀の私達が失った人間への関心がここにはあります
心が温まる素晴らしいロードムービーだと思います
清水宏監督は小津安二郎や溝口健二、黒澤明など名だたる仲間、監督たちが高評価、リスペクトする玄人受けの高い監督さんだそうです。そうまで言われたら見ないわけにはいきませんね。
本作は伊豆の山道を走る乗り合いバスのロードムービーです。主人公は誰にでも親切で慕われる運転手、道を空けてもらう度に通行人や家畜にまで”ありがとうさん”と声掛けすることから通称「ありがとうさん」と呼ばれます、褒められると「街道稼業の仁義でさぁー」と照れ隠し、後に美男俳優の代表格となる上原謙さんが演じています。
74分の路線バスの旅が退屈しないのは清水監督によるエピソードの追加、心情を巧みにとらえる人物描写、演出のうまさでしょう。
様々な境遇の乗客、身売りに出される娘と母に象徴される世相の暗さ、「もう8人の娘を見送っている、こんな辛い思いをするなら霊柩車の運転手になった方がましだった・・」とありがとさんの本音が漏れてしまいます。朝鮮統治の時代、出稼ぎの朝鮮労働者の娘が工事で死んだ父の墓守をありがとさんに託します。様々な重いテーマをお涙頂戴にせず聞き役に徹しながらもささやかな励ましにつなげてゆく演出の上手さが光ります。個人的には温泉地を渡り歩く酌婦役の桑野通子さんが光ってますね、運転手の後ろに座って本音でグサリの狂言回し、色っぽさも、気風の良さもぴかいちです。原作では娘との一夜の契りをありがとさんに持ちかける母のくだりがありますが清水監督の感性が許さなかったのでしょう、酌婦のお節介な一言で少女の運命が変わったように思えます。
全編オールロケでありながら乗客視点でのカットバックやバックミラー越しのショットなど制約を感じさせないカメラワークが上手です。トーキーのはしりだからでしょうか訥々としゃべるの母娘セリフなど棒読み感がありました。蛇足ですが母役の二葉かほるさんがアングルによって樹木希林さんに見えて驚きました。
戦前の映画で盛り上がりもしなければ、たいした葛藤もない。でも深みが出ている良い映画だと思います。
戦前の田舎の風景って江戸時代とほとんど変わらないなぁとか、昔の人はゆっくり喋ってたんだなぁとか風物の勉強にもなります。
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