天城越え

劇場公開日:

解説

十四歳の少年と娼婦が天城峠を旅しているとき起きた殺人事件と、三十年間、事件を追い続けた老刑事の姿を描く。松本清張の同名の小説を映画化したもので、脚本はこの作品が監督デビュー作となる「夜叉ヶ池」の三村晴彦と「炎のごとく」の加藤泰の共同執筆、撮影は羽方義昌がそれぞれ担当。

1983年製作/99分/日本
原題:Amagi Pass
配給:松竹
劇場公開日:1983年2月19日

ストーリー

静岡で印刷屋を営む小野寺のもとに、田島と名乗る老人が、県警の嘱託で「天城山殺人事件」という刑事調書の印刷を依頼しに来た。原稿を見て激しく衝撃を受けた小野寺は十四歳の頃を思い浮かべる。小野寺は十四歳のとき、母の情事を目撃し、それまで彼にとって、神であり恋人であり、亡き父を裏切った母が許せず、静岡にいる兄を訪ねて一人で天城越えの旅に出た。少年は素足で旅する若い娘ハナと出会い、並んで歩いた。少年は美しいハナに母の面影を感じる。ところが、道中、ハナは一人の土工に出会うと、無理矢理に少年と別れ、男と歩きだした。気になった少年が後を追うと、草むらの中で情交を重ねる二人を目撃する。その土工が殺された。ハナが容疑者として逮捕される。土工と歩いているところを目撃した者もおり、彼女は土工から貰ったと思われる金も持っていた。さらに、現場には九文半ほどの足跡があり、ハナの足も九文半だった。警察の取調べに対し、ハナは土工と関係して金を貰ったことは認めたが、殺しは否認した。売春宿の女だったハナは一文なしで逃げだし、金が必要だった。結局、ハナは証拠不十分で釈放された。彼女は真犯人を知っている様子だか、頑として口を割らず、事件は迷宮入りとなった。田島老人はそのときの刑事だった。「九文半の足跡を女のものだと断定したのが失敗でした。犯人は子供でした」と老人は語る。そして、犯人である子供の動機が分らないと続ける。犯人は、少年=小野寺であった。少年はハナと土工の情交を見て、母が犯されている……そんな思いが浮かんだ。ハナにも、少年と天城を肩を並べて歩いているうちに、彼の純粋な気持ちが伝わったのだろう。だから、目撃した事実を口にしなかったのだ。刑事だった老人は、三十年ぶりで小野寺が真犯人であるという推理に達し、印刷を依頼に来たのだ。しかし、もう時効であった。

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映画レビュー

3.0青い衝動

2023年7月29日
iPhoneアプリから投稿

雨の中で少年に別れを告げる田中裕子の美しいシーン。いい画が多い。
現実に目を背ける少年の中で勝手に膨れ上がった聖女観に絶望してキレる少年。救いようがないが、その青さを尊ぶようなところもある。
単に生きる術として身を売る女をさげすむような面はなし。空回りする渡瀬恒彦の方が卑小に映る。
なぜ真相に気付いたのか?捜査としては内容が薄い。

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Kj

2.5みる価値は田中裕子です

2023年2月10日
iPhoneアプリから投稿

ストーリーが単純なだけに、犯行に至る犯人の心の動きや、長年にわたり犯人を追い続けたという刑事はなぜそうまでこの事件に固執したのかなど、掘り下げるポイントがもっとあったと思う。焦点がわからなかった。
そして、昭和らしい刑事の暴力的で非人間的な取り調べは、はっきりと不快で見ていられなかった。途中で辞めようかと思ったくらいだ。
最後まで見た理由は、田中優子の美しさと、時折見せるハッとするような表情だった。憎しみや優しさを全身から漂わせる。見とれました。

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ニョロ

3.5田中裕子

2022年6月18日
iPhoneアプリから投稿

の色艶のみ堪能出来る映画て特に他はない。渡瀬恒彦の警察でのシーンは上手い。

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ken

4.5聖と、生と、性と  ”女性”という存在

2021年9月13日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

萌える

下ネタ満載。
なぜ、おもらしの描写が必要なのか、ずっと考えている。
(原作未読)

峠を越える。少年、商人・流れ土工・足抜けの娼婦。峠の茶屋。
そして事件が起こる。
 松本清張氏原作の映画化だから、推理がメインかと思う。
 けれど、映画では、後半「実は…」という展開にもなり、ある意味『刑事コロンボ』をほうふつとさせる展開ではあるが、”謎解き”よりも、少年と娼婦の心の動きの方が心に残る。

イニシエーションの話かと思っていた。

 映画でも引き合いに出されるが、川端康成氏の『伊豆の踊子』がベースとしてある。が、こちらは、初めは淡い初恋の物語ではあるが、そこに納まりきらず、生きていくって、こういう事だというところに落とし込む。
 安全で守られていた場所から、あることをきっかけにして、家出する少年。雄々しく一人で歩いていこうとするが、途中であった人々に依存(道連れ)しようとしてお金を使っては、見捨てられるという、世間の厳しさを味わう。
 山道。今のハイキングとは比べ物にならぬ危険な道。今のように装備された道でさえ度々報じられる遭難。そんな装備のない道なら。方位磁石の代わりの星は輝いていたとはいえ、光もマッチの火・松明・焚火くらいしかの明るさ。野犬に食い殺される可能性も大いにある。
 どうしようかと思ったとき、少年は天女に出会う。この時、天女が目指す先が先の商人たちと同じように、少年の目指す場所と違っていってもついていったのではないか、なんて思ってしまう。それほど、心細かったから誰かと一緒にいたかったし、天女を守る気もあったのだろうか。
 だが、ここでも少年は裏切られる(見捨てられる)。「ちょっと、用事ができたから、先に行ってて」。
 そして…。

 そんな少年と道連れになる娼婦を、田中さんが演じる。映画も半分近くとなっての、満を持しての登場。最初の場面は天女かと思うくらいだ。お召しになっているものは木綿の着物で、白塗りと言い、赤い口紅と言い、見るからに、”娼婦”。足元、ヒップ、そして顔というカメラ目線も、エロおやじ目線なのだが、顔が映ったとたんに天女になってしまう。
 それが、少年が後からついてくるのを察した時から、この天女と幼女と姉御:少年の憧れの具現化と、同時に少年を罠に絡めた蜘蛛のような表情が混じりこむ。そして、土工を見つけた時の表情。生き延びるための強かさ。獲物を見つけた狐が舌なめずりをしたような表情。実際には全財産を巻き上げて絞りとるつもりはないことは後の土工と娼婦のやり取りでわかるのだが、すべてを吸い尽くされそうだ。
 田中さんのすごいところは、この、相対するもの、聖と欲望、人を救い愛おしむものと、人を利用し死に至らしめるものが、同時に存在するところだ。別キャラや別の場面として演じ分けられる人はたくさんいる。だが、同じ場面で、ちょっとしたコミュニケーションの駆け引きの中で、そのすべてを感じさせてくれる女優となると他にいらっしゃるのだろうか。

こんな存在と出会ってしまった少年。
母との関係。目撃。幻想・理想。聖なる部分と性なる部分。そして…。
少年は、それまでの少年のままではいられなかった。

映画は、少年だけでなく、刑事の職業人としてのイニシエーションも描きこむ。

刑事になりたての男にとっても、生涯囚われてしまう事件となった。
事件解決に憧れ、”正義”を振りかざすだけの職業人のままではではいられなくなった。

 そんな映画の中で多用される、汗、下ネタ、雨、川、ワサビ田、氷室…。

  おもらしの部分は必要だったのか?
 田中さんの気合は見て取れるけれど、演出としての必然性は感じられない。取り調べのキツサを表現するのなら他の方法だってあるはずだ。渡瀬氏、山谷氏、田中さんが演じるんだもの。監督のキワモノ趣味かいじめにしか見えない。
 他の下痢をはじめとする下ネタエピソードも、まだ必然があるにしろ、多すぎる。

 聖と、生と、性に関するものを散りばめて、”生きている”ということを紡いだつもりなのだろうか?
 浄化する水。人里離れた自然豊かな美しい土地での、殺人事件という”死”を扱う物語。
だが、”生”の臭いがこれでもかと立ち込めている。

生きるとは、きれいなものだけでは存在しない。
眼を背けたい・さらしたくないものとともにあるものなのだと。

そして、
少年は人生に何を抱え、最期に何を思うのか。
刑事は職業人として何を抱え、最後に何を思うのか。
映画では言語化はない。二人の表情で推し量るのみ。

☆ ☆ ☆

 Wikiによると、田中さんと監督はあまり反りが合わなかったらしい。だからか、田中さんの出演されている場面は、なんとなく緊張感が出ている。少年とハナの前半の道行きさえも。ハナにとっては、足抜け道中なのだから当然だとは思うが。

 伊藤君もいい。田中さんや吉行さん、小倉氏の演技を、素直に受け止める表情に、自分の思春期を投影してしまう。どうして役者は続けなかったのだろうか。

役者に関しては、田中さん、伊藤君だけでなく、周りを手堅い方々がきちっと支えてくれ、手放しで評価したい。

天城の風景もとてもきれい。

反面、
場面が「公園?」等、アスファルト・コンクリートっぽいものが映っているところがあって、もう少し心配りができなかったのかと悔やまれる。
老年期の田島のファッションや動き方もコントの領域。座した渡瀬氏がいい演技をなさってくださっているだけに、一番悔やまれる。

演出には不満がありつつも、役者・映像・音楽、それだけでも必見です。
(演出に-0.5)

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とみいじょん
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