「いい人生じゃったという言葉の意味」あの、夏の日 とんでろ じいちゃん あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
いい人生じゃったという言葉の意味
新尾道3部作の3作目
美しい尾道の光景の中で、70年前のじいちゃんの子供の頃の忘れたい記憶が蘇ろうともがいている物語です
菅井きんのチャーミングなおばあちゃんは、ボケたじいちゃんとはどこかよそよそしいのです
まるで他人のような
それが終盤に初めてあなたと呼び掛けてはっとさせられます
孫の由太を介して、この夏彼女は夫を初めて愛することができたのかもしれません
おみゃーがわしを信じさえしたら、一緒に空を飛べるのに、という台詞の意味はこれだったのです
ラストシーンで由太が見たのは、真っ青な夏空を飛ぶおじいちゃんの姿です、右手にはお玉ちゃん、左手にはおばあちゃんと3人で大空をツバメのように飛んでいます
おじいちゃんのいい一生じゃったという言葉の意味を由太はこれを見て理解したのです
とんでろ!じいちゃん!
おばあちゃんはおじいちゃんを信じることが出来て飛ぶことができるようになったのです
だからおじいちゃんと一緒に飛ぶ為に、あれからすぐあっちにいってしまったのだと思います
玉虫とはそんな魂の成り変わりの象徴なのかもしれません
病院に東京の由太の家族が駆け付けた時のじいちゃんの言葉を姉が問いただすシーンが、このラストシーンの前に挿入されているのは、本当はその台詞を私達観客に思い出して貰うためにあったのだと思います
恋愛結婚は良いもんじゃろうのう
おじいちゃんが由太の父昌文に言った言葉ですが、実はおばあちゃんにも届いています
見合い結婚でよそよそしい夫婦だったし、お玉ちゃんのこともあったけれど、本当はこころを通わせたかったんだよというラブメッセージだとおばあちゃんは受け止めています
一瞬手を止めた菅井きんの素晴らしい演技に目が吸い寄せられました
お姉ちゃんも勉強だけじゃのうて、たには恋愛でもしたらどうじゃ
これは由太の口を借りたおじいちゃんのお姉ちゃんへの言葉だったのかも知れません
Houseハウスを思い出させるような合成やアイリスが多用されています
ピーカンとは単に快晴という意味ですが、本当は映画の撮影手法を指すと大林宣彦監督が特典映像で語られていました
真っ青な夏空の青が撮影できる露光で撮影しても、人物が真っ黒にならないように強い照明を当てて、空の青さと人物をそのまま同時に撮影する手法のことだそうです
人物に露光を合わせると、空の青さは白飛びして、白い空にしかならないそうです
例えばロープウエイ沿いの高台の岩場のシーンがピーカンです
真っ青なピーカンが撮れていなければ、それこそ本作は意味不明の作品になってしまいます
本作は夏空が本当に真っ青でなければ意味をなさないのです
それは見事に成功しています
そして、その真っ青な夏空の下、尾道の街が広がっているのです
青は青春の青にも通じているのです
人生の夏です
見事な作品です
さすがは大林宣彦監督です、傑作です