劇場公開日 2020年4月3日

「久しぶりの再見(最初に見たのは封切時か?)。サイバーパンクアニメの金字塔。」AKIRA mark108helloさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0久しぶりの再見(最初に見たのは封切時か?)。サイバーパンクアニメの金字塔。

2024年12月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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おのずと知れたサイバーパンクアニメの金字塔。このレベルのアニメが今から40年近く前に制作されていたことに驚く向きもあるが、それ以上に大友がコミックと言う表現方式でリアルタイムで多くの傑作を発表し始める同時代に息をしていた者にとって、何よりもその時代の中でも飛びぬけた革新的表現を構築していた大友のそれに影響を与えていたものの中にアメリカンニューシネマがある事は自明の理であったろう。🎦イージーライダー、🎦地獄の黙示録、🎦キャリー、🎦2001年宇宙の旅、など多くの革新表現の中に身を置く大友が自身の表現の中で結集させた📖Fire-Ball以上の衝撃を望む者はいないはずである。ご承知のように📖Fire-Ballは1979年創刊のアクションデラックス誌上に50ページの未完作品と掲載(後に100ページに増項され完結)。この未完が衝撃であった。のちに加えられた50ページは作者の語り部としての自己満足感が多く、その衝撃を貶めることになるのだが、未完であったが故にその解釈の幅は🎦2001年宇宙の旅レベルまで拡張し、SFファンの間で伝説となった事は周知の事である。

このSFエッセンスをその翌年のアクションデラックス誌上に発表される問題の衝撃作📖童夢のプレリュードとしてのこの📖Fire-ballは📖AKIRAへと昇華する。アートシアターギルド(ATG)の映画作品に溺れ、🎦時計仕掛けのオレンジや🎦ソイレントグリーンなどの未来描写をも取り込んだ大友の描く世界観は一気に世界の見据える未来像となる。

しかしながら🎦アニメAKIRAの中で描かれる世界は、ヴェンダースの描く小津の🎦東京物語よろしく、未来ではなく自身へのオマージュであった。ヴェンダースにおける小津は、大友にとって手塚であり同郷の大先輩である石森(石ノ森ではない)であり、藤子であり、何よりもっともあこがれの強い横山光輝であった。🎦AKIRAの主人公、金田は📖鉄人28号の金田少年へのオマージュであることは有名である。まるで役所広司に小津の🎦東京物語の主人公、笠智衆演ずる平山周吉にあやかって平山と名付けるかのように。

ヴェンダースは1945年8月14日生れ。そう日本の終戦記念部の前日の生まれである。しかもかつての第二次大戦の日本の同盟国でデュセルドルフの出身。デュセルドルフには当時ドイツ最大の日本人街があったと言う。しかも医者の家庭で育ったヴェンダースには当時日本で交易のあった神戸に住む手塚一家とイメージがかぶるのである。しかしヴェンダースには手塚のような高踏さは無く小津の持つ市井へ穏やかなまなざしこそが小津と重なるのである。そしてヴェンダースの出生10年後にわれらが大友はこの世に生を受ける。正確には9年目後ではあるのだが、この大友の生後10年を経て日本は第一回目の東京オリンピックを開催する。10歳になった大友に映った日本はヴェンダースが憧れた失われる日本ではなく再生する日本であったはずである。そしてその後崩壊した日本を描いた大友の予言がジワリジワリと日本に忍び寄っているようで恐怖を覚えるのである。そう・・都市こそ破壊はされないものの・・・日本人の心はどうであろうか?

その一方でこの日本には映画はもとよりファッション、建築と経て昭和歌謡や漫画と言う当時世間では西洋のファインアートや荘厳なクラシック音楽とはおよそかけ離れたところに位置するサブカルをせっせと紡ぎだす文化の土壌があった。この織り成した曼荼羅こそが2000年以降の日本のカルチャーコンテンツ大国の基盤を作る事になるのである。その事態を予言したかのような大友のアニメ🎦AKIRAには高度成長の少年たちを支えた多くの漫画が封じ込められている。高野よしてるの📖赤ん坊帝国、井上智の📖魔人バンダー、黄金バットにシルバー仮面、ウルトラQ、ドラえもん、サイボーグ009、怪人同盟、ボンボン、さるとびえっちゃん等など往年の漫画ファンには心ときめかせたエッセンスが🎦AKIRAにはふんだんに封印されている。まさに大友が体験したマンガ世界であったろう。まさにマンガのメルティンポット。🎦AKIRAのワンシーン26分超の場面で金田同級生の学校で読んでいるマンガ雑誌が「ぼくら」である点に注目したい。設定は2020年であるにもかかわらずだ。

そしていよいよこの大友がこの📖🎦AKIRAで捧げたおおもとのコンテンツこそが石森・平井コンビの伝説的傑作📖幻魔大戦である。大友組の今敏や高寺彰彦などの作風にも強い影響を与えたこの未完の大作は後にりんたろう監督でアニメ化された際キャラデザインで大友も参加。その強い憧憬がうかがわれる。また大友のSFデザインには📺ラットパトロールや📺ワイルド7などの影響もみられる事から70年代の活劇娯楽番組のエッセンスの昇華・洗練も見て取れるところである。最後に大友はヤンマガ連載終了時にこの作品を手塚治虫に捧げた。その後一切マンガが描けなくなった大友は藤子・F・不二雄先生を訪ね何故そんなに描くことが尽きないのかを聞いた。そしてアニメの世界へと旅立ったのである。手塚、藤子、石森(石ノ森ではない)横山のSFエッセンスを最大限に作品化したこの大友克洋をしのぐSFビジュアリストは向こう100年は出現しないであろう。その金字塔こそがこの🎦AKIRAなのである。

mark108hello