「オー、ブラーバァ!情熱と叙情がしっかりと描かれた芸術的な一本!」4分間のピアニスト たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
オー、ブラーバァ!情熱と叙情がしっかりと描かれた芸術的な一本!
厳格なピアノ講師クリューガーと、乱暴だがピアノの才能に溢れる女囚ジェニーの交流を通して描かれるヒューマンドラマ。
ドイツ映画を観賞するのは初めてでしたが、流石は芸術の国。音楽への情熱と人間の持つ哀しみを内包した素晴らしい作品でした。
厳格な老教師クリューガー。頑固で偏屈、クセのある性格の人物。独身を貫き、愛するものは芸術だけだと言い放つ。
彼女に教えを乞うのは乱暴者の問題児ジェニー。ボサボサの髪型で腕を掻き毟る癖のある、おおよそ音楽に精通しているようには見えないが、実は天才的なピアノの腕前を持つ女性。
対称的な人物がぶつかり合いながらも次第に心を通わせてゆく様子は、ベタではあるがやはり面白い。
そして、2人が心を通わせてゆく中で、次第に明らかになってゆくお互いの過去…
ここがこの映画のミソであり、物語への求心力を強めているポイント。
特にモザイク状に描かれるクリューガーの過去が面白い。
ナチスドイツ時代の刑務所。秘められた恋。そして恋人の行方…
一体どのようなトラウマが彼女の心を蝕んでいるのか?この辺りの描き方が非常に上手い。
真面目なストーリーだが、決してシリアスになりすぎておらず、コメディを挟んでいるのもポイント。
刑務所職員たちの会議の場面での、お役所仕事感満載のところとか笑えたし、クリューガーとジェニーが私服を取り替える場面での、老婆がとんでもない格好になるところとかコメディとして非常に面白い🤣
そして、何よりラストシーンのピアノ演奏。この演奏も素晴らしかったが、何より良かったのは最後の最後にジェニーがクリューガーに向けて送ったあの行為。そしてあの不敵な微笑み。あのラストシーンだけで傑作決定!
ただ、あのラストシーンも素晴らしいかっただけに不満なところもある。
クラシック演奏を聴きにきた観客があのジェニーの演奏を聴いてスタンディングオベーションを送るか…と気になってしまいました。
あそこは観客はキョトンとなっているけど、クリューガーだけは感涙しているという方が良かったかな。細かいことだけど。
あと、ジェニーとクリューガーの過去もちょっとセリフで説明しすぎていたかも。
もっと観客に想像の余地を残してくれてもよかった気がする。
何はともあれ、素晴らしい作品でした。
私の大好きな映画『セッション』にかなり似ていたところがあり、もしかしてデイミアン・チャゼル監督この作品を観た?とか思ってしまいました。
教えてもらうなら絶対フレッチャー教授よりもクリューガー先生だなぁ(笑)