犯人に告ぐのレビュー・感想・評価
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犯人よ、震えて眠れ
原作は大藪春彦賞受賞した名作。
この映画も面白いのですが、原作からかなり改変されているのでちょっとそれが気になりました。
まず植草刑事とライバルのニュースキャスターの女はこの映画では「結局なんだったの?」という感じですが、原作では主人公が植草に偽の情報を渡してライバルのニュースキャスターがそれを信じて番組で放送してしまい大打撃を受けます。原作ではそこが最大の山場なんですけど、映画では何故かがっつり削除。
またこの映画では「6年前の犯人はけっきょくなんだったの?」という感じですが、原作ではちゃんとケリがついてます。原作では主人公がテレビで6年前の犯人に対して辛辣に批判をしたことによって自殺することになっています。
この映画でも6年前の犯人は自殺するのですが、主人公がテレビで批判するシーンが何故か削られているので意味不明になっています。「え?何故死んだの?」と。
原作を見てなくてこの映画だけ見た人は「6年前の犯人って結局なんだったの?」としかならないのではないでしょうか…
最後に主人公の子供を誘拐したのが実は6年前の被害者の父だったと分かるシーンも、映画だけだと「?」な感じですが、原作ではもうちょっと丁寧に解説されています。
被害者の父と主人公の考えの行き違いによって主人公は最後刺されるのですが、原作では「主人公は犯人を逮捕したら謝るつもりだった」と被害者の父は「あの時謝って欲しかった」とのすれ違いを丁寧に解説されており、そこがグッとくるところであります。
映画ではちょっとよく分かりません。
面白い映画ではあるのですが、原作はさらにめちゃくちゃ面白いので未見の方は是非。
緻密ではないが心に訴えるシーンのある映画
この映画、端的には自分で意外なくらい好きなんですが、複雑な感想が湧くので整理すると‥
・主演なので当たり前と言えばそうだが、この映画を一作品たらしめているのは殆どトヨエツの演技と雰囲気醸し出しの成果。素人ごときが映画制作という協働事業の評価を役者一人に帰すなんて僭越だけど、そう思えてしまうのは本当だから仕方ない。特に彼の無言のカットでの締まった雰囲気出しは、この映画各部のダレや散らかしをなんとか抑えている。
・上述の映画全体の不備は、殆どが纏まり不足の脚本、一部ん?のキャスティング・演出、時々舞台劇のように動かなくなり全体が暗い撮影といった、これもまた僭越だけれど、私が頻繁に感じる日本映画の宿痾が表れている。三つ目の撮影に関して、本作はトヨエツの演技の波長が画とそれなり合っているのでかなりマシに感じたけど。
・ストーリー的には狙いの犯人の捜査部分以外が多く、結果的にちょっと蛇足、冗長が感じられるけれど、各役者さんは夫々のシーンで頑張っているので、脚本や演出の取捨と繋ぎが良ければ無駄に感じることはないのではと思う。
・上記から、夢想甚だしいけど、本作がハリウッドが中型作品並みの資金とスタッフ、特に脚本や撮影が上質でトヨエツが無理なく演技できる(ここ大切)設定であったら、相当ハードで面白い映画になったりして、と思ったりする。好きなんで。
・文句を長々色々言ってもやはり結構好きなのは、主演の頑張りと映画の雰囲気、そしてこの三つ;
- 主役が前半の記者会見で私事の一大事(←結局大丈夫だった)と失敗の自責感、上司、マスコミの各圧力にキレて訳分からんことを叫んで逃げるシーン
これ、お人好しの社会人を無理にやってると、こんな感情暴発誰でも一回くらいあるよね〜と物凄くリアルに感じてしまい‥。
- BAD MANを追い詰め、「犯人に告ぐ‥」「‥今夜は、震えて眠れ」のシーン
凶悪な事件、不条理への憤り、観る者にとっての映画進行そのものへのモヤモヤも全てこのシーンで収斂、収束する。素直に爽快でカッコいい。
- エンディング、明るい光の中で主役刑事がのんびりするシーン
これが余計だとか意味分からんとのご意見もあるようですが、私は上述一つ目のシーンからの感慨もあり、主役と共に何か少し救われた気分がした。光をとりわけ取り入れた演出を評価したい。
この三点があるからか、刑事物のお話、映画としてはそれほど名作とは認識していないのに何故か時々再見したくなる。再映や配信機会が乏しいのが残念。それと、刑事物やサスペンス邦画の制作、脚本、もっと頑張ってほしいす。
全ての面で破綻しています
まず、本筋と犯人は関連がほとんどありません。
犯人になりすまして声明してるのは神奈川県警本部長。
主人公の子供を誘拐するのは、昔の被害者の親。
犯人は知恵の足りない変質者でした、とさ。
じゃ、物語は何も意味ないと、そういうことで。
誘拐事件より警察内部の暗部を描いた作品
豊川悦治演じる主人公のキャラは現実味が無いとしても
脚本家は中々ひねったアイデアで勝負している。
犯人を追いつめるディテールは迫力があり
展開も面白い。
ただ、その分落ちや今後の展開を匂わす
最後は少し中途半端だったかも。
地道な地元警察の捜査とそれを手柄や出世の
道具としか見ない官僚主義。
まさに手柄は上司、落ち度があれば部下の
責任と言う巨大官僚組織の腐敗ぶりを
描いては有るが、テーマが犯人との
駆け引きに絞った方が良かったかも。
内部の暗躍が絡むとテーマがぼける。
配役は可もなく不可もなくベテランが
脇を添えていてドラマとしては
完成度が高いが映画として観ると
どうなのか?
ドラマの延長感がぬぐえず、
もう少し良く仕上れたのに残念。
「養其拙」其の拙を養ふ(その素朴さを養う)
映画「犯人に告ぐ」(瀧本智行監督)から。
最近「禅語」に興味があるからか、
ストーリーよりも、小道具と言うべきか、
掛け軸や表装された額などに書かれて文字が気になる。
主人公の配属それた警察署の部屋に飾ってあった額に
「拙其養」の文字発見。
たぶん「養其拙」という言葉だろうと見当をつけて調べたら
「養其拙」其の拙を養ふ(その素朴さを養う)
「拙」はつたない、という意味で、
飾り気のなさ(気持ち)を養う、という意味があることを知った。
素朴な心を持ち続ける=上手く世渡りしない、と解釈すると、
この物語の主人公の気持ちに合致して、この作品の根底を流れる
制作者の想いが浮かび上がってくる。
画家がちょっとした遊びで、自分を絵画の中に登場させるように、
たぶん、監督もさりげなくこの作品の中に、その想いを登場させた、
そう考えてもおかしくない。
こんな視点で、映画やドラマを観察するのは、とても楽しいし、
それを発見した時、私の心の中で「み〜つけた」と叫ぶ喜びがある。
これからも、こんな視点で映画を観続けたい。
思っていたより劇的でない
正直主人公の過去の掘り下げ方、内面の書き方が足りないため、あまりピンとこない。キャスターの描き方もちゅうとはんぱで劇場型捜査と宣伝している割りには、あまりよくはない
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