「豊川悦司のトーンを殺した渋い語りの中に、どれだけの巻島の挫折した過去の悔しさと犯人逮捕への情熱を秘めていたことでしょう。」犯人に告ぐ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
豊川悦司のトーンを殺した渋い語りの中に、どれだけの巻島の挫折した過去の悔しさと犯人逮捕への情熱を秘めていたことでしょう。
『犯人に告ぐ!・・・今夜は震えて眠れ!』
異例のテレビ局のニュース番組から、連続児童殺人犯「BADMAN」へ主人公の警視・巻島は、挑戦状をたたきつけたこのワンシーンに痺れました。
豊川悦司のトーンを殺した渋い語りの中に、どれだけの巻島の挫折した過去の悔しさと犯人逮捕への情熱を秘めていたことでしょう。
本作は、前代未聞の“劇場型捜査”をテーマにしつつ、その伏線として冒頭に、6年前に犯人を取り逃がしてしまった起こった児童誘拐殺人事件を描きます。
この伏線は重要です。6年前の捜査当時に置かれた巻島の状況は、その後の警察上層部の無責任さや巻島の「BADMAN」に逮捕に対する執念を強調する意味で効果的でした。
また当時巻島の妻が臨月を迎えていて、母体の危機に面していたのに、誘拐事件の専従となっていけなかったという夫としての罪悪感も伏線となっています。
捜査を通じて、いつも犠牲にされる巻島の家族との関係。しかし、彼の家族愛の深さはラストで感動を呼ぶストーリーを醸し出すのです。
さらに6年前とその後をつなぐシーンの演出もよかったです。
臨月で死にかけていた妻の膝枕の上で、ゆっくり目を覚ます巻島の姿に、思わず6年前屈辱は夢幻のごとく感じられました。
その後山奥の警察署で悠々自適に暮らしていた巻島であったのですが、田舎に飛んでも優秀な検挙率を残す巻島に目をつけたのが県警本部。またしてもしくじったらトカゲのしっぽ切り要員として、巻島を「BADMAN」捜査の責任者に祭り上げました。
何かあったらまた責任を取らされることは分かっていつつも、責任者のポストを受ける巻島の信念には惚れ惚れしましたね。
あと、「BADMAN」捜査をあたかも進展しているかのように自作自演で、「BADMAN」を名乗った手紙を捜査本部に送りつける県警本部長に、「これは俺の事件だ、余計な手出しをしないでくれ」と詰め寄る巻島が格好良かったです。
ちょっと結末が時間切れであっけなかったものの、最後のシーンまで、とことん豊川悦司はトヨエツ臭く決めてくれております。
刑事物と言うよりも、一人の男の生き様を綴った作品といえるでしょう。ちゃらちゃらした刑事物に飽き飽きしている人なら、ぜひ本作でハードボイルドに痺れてほしいと思います。
『映画ファンに告げる! 今夜は震えて眠れ!』