「賛否両論へ誘導する巧さ」ゴーン・ベイビー・ゴーン 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
賛否両論へ誘導する巧さ
あざやかな演出によって、情を採るか、法を採るかへもっていく。
「考えさせられた」と言ったとき、考えた部分が、どこなのか、人それぞれだが、すくなくとも「考えさせられる」映画だと、多くのレビューが伝えている。
あたかも、融通のきかない人のような描写がされているものの、法治国家であるいじょう、法を採ったパトリックが、妥当だと思う。
正誤とか、善悪は知らない。
ただ、妥当だと思う。
個人的に「考えさせられた」部分は、どっちを採るかではなく、アンジーだって懇願している、あれだけの状況下で、自分の信念を貫いたパトリックを見て、そんなことが自分にできるか「考えさせられた」。
構造を見たとき、アマンダのような境遇を負う子供は、何十万といるはずである。ドイルが助けたのはその一人であって、であるなら、それは子供の幸せか、法律の遵守か──という大局的な選択にはならない。たんにそれは、その事案だけの問題だ。
その事案だけの問題にもかかわらず、映画は観る者に、大局的な選択をゆだねるような巧妙さを持っていた。
もっと客観視するなら、ドイルもレミーも、事件そのものも、ありえない極端なドラマ性の上に立っている。
その、アクロバチックな物語の作為を気づかせずに、最後の選択肢へ持っていき「考えさせる」映画に仕上げていること、そしてそれがベンアフレックの初監督作だということに「考えさせられた」。
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