「法廷闘争での善悪よりもそこにいる人々の人間性を炙り出す作品」フィクサー(2007) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
法廷闘争での善悪よりもそこにいる人々の人間性を炙り出す作品
総合75点 ( ストーリー:70点|キャスト:80点|演出:80点|ビジュアル:70点|音楽:65点 )
突然錯乱した同僚弁護士のアーサーは、本人の告白によると売春宿で二人の赤毛を相手にお楽しみ中に突然正義に目覚めてしまったらしい。主人公のマイケルは仕事帰りに偶然目にした丘の上の馬三頭に目を引き付けられたことで考えが変わったらしい。始末屋たちはアーサーに対してはあんなに慎重だったのに、マイケルに対してはなぜこれほど大胆で目立つことをわざわざしちゃうのだろう。疑問に思う部分はそれなりに多い。
フィクサーとしてのマイケルの抱える仕事や家族や賭博や借金の個人的背景に加えて、大筋である訴訟問題とその裏にある陰謀があってもともと複雑な物語は時間が前後するし、ちょっとした兆候で人や物語の筋が変わる転換点になっているのでわかり辛い。従妹のティムが問題を起こすことやら書類の署名のことやらカレンが掛ける謎の電話やら、たくさんの伏線があって見逃すと話がつながらなくなる。本筋を正確に把握するのは簡単ではなかった。この辺りはもっとはっきりと見せてくれた方がいい。物語の理解を視聴者の細かい注意力に頼りすぎている。
作品の主題は単純な正義と悪の戦いでもないし、訴訟で勝ち負けを決めてすっきりということでもない。汚れた法曹界の裏側を明らかにしているが、そこにいた人々の人間性と決断を中心に描いている。人生に係る大きな問題があれば、自分のためにあれこれと画策したり、逆に全てを投げ打って過去と決別をしようとしたり、不安や重圧や良心の呵責などから逃げるために四苦八苦する。要はこのような人間劇である。アーサー、マイケルの二人に加えて、激しい重圧に押し潰されそうになりながら人前では強気を押し通し、裏側では超えてはいけない一線をどんどん越えていくカレンを演じたティルダ・スウィントンの人間性は興味深い。どんな手を使っても彼女が守りたいものとそのために彼女が犠牲にするものとの対照と、たとえそれが悪でも常に緊張を強いられながら精一杯出来ることをしていく様子は存在感があった。緊張感のある演技と演出と決着をつけようとする結末のマイケルの判断とのおかげで、総合的には面白い作品だった。