「愛しくも、うざったい方々(笑)。」クワイエットルームにようこそ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
愛しくも、うざったい方々(笑)。
「閉鎖病棟は世間のしがらみからあなたを守るところ」
実は隔離病室だって、そういう使われ方しているところがある。お仕置き部屋じゃなく。
”閉鎖病棟”と言うと、世間的には”奇妙で””危険な”人々を、世間の平和の為に”隔離して””閉じ込めて”置くものだと思っている人が、まだいる。
そこは閉じられた空間だけに、何か秘密めいたことが行われていて、様々な空想をかきたてられる。ホラーの題材にも使われるし。その影響からか、ある高校の文化祭でのお化け屋敷の名が”閉鎖病棟”だった。それを知って悲しかった。未だに世間の認識ってこの位なのか。
垣間見ることのできない異様な空間。それが”閉鎖病棟”。
でも意外と身近。誰だってお世話になる可能性はある。例えば、徘徊がひどい認知症の方が、入院治療受ける場合は閉鎖病棟に入院せざるを得ない。
そんな”閉鎖病棟”を舞台にした映画。
”閉鎖病棟”の様子をかなりデフォルメして描いている。つっこみどころ満載。偏見を助長しないかと心配になりつつも、つい笑ってしまう。
そして考えさせられる。
”病気”と”普通”の境目。入院している人だけが”病気”?
特にさえとさえの両親、どっちが病気なのかわからなくなった。そして、人生おもしろければいいと生きている人の異様さよ。
コモノとの絡みとか。
「どん底まで落ちれば、後は浮かび上がるだけ」とは言うものの、それが難しい。どん底で自分の脚で立てればいいけど、たいていはどん底の底なし沼のような沼に捕まって立ちあがるのに一苦労だもの。
特に、みきのように自分に価値を見いだせないとね。胸が痛くなる。
物語的には、明日香が閉鎖病棟に入った理由に直面してからのことがもう少し丁寧に描かれていたら☆5つだったんだけど…。
そして、笑ってしまうのだけれど、笑いのセンスが合わないところも…。
惜しい。
とは言え、他のレビューにあるように、役者は凄い。
大竹さん。
最初の登場は、お年を確認したくなるくらい可愛かった。だのに、段々と老醜がにじみ出てきて…。怪物を怪演。役者とはここまでやるものなかのか。自分の人生をかけているものの為ならば、ここまで自分をさらけ出す。見習いたいけど、ストップをかけちゃう私。だから小物なのね。
蒼井さんはこれまでの役とは雰囲気が違う。
出色。この映画初見の頃、ここまでできる方だとは思わなかった。ただ、笑顔のかわいい、素直なお嬢さんしかやらないと思っていたら。大変失礼いたしました。
クドカンも、時折見せる表情・佇まいが良い。
他にも、自分の仕事をなさっておられる役者が勢ぞろい。
アットホーム的な様相を醸し出しつつも、その甘さに流れない。シビアでシュールな映画。
ラストがナイス!
テンポよく、楽しくエンターテイメントに酔わせていただき、後で「自分の生き方大丈夫?」と妙に不安になりつつも、なんか元気を貰える映画。
う~ん、複雑…。
なぜかひきつけられる映画です。
≪2024.5.5追記≫
この映画も自分とは精神的に健康なのか?とつきつけられる傑作だが、偏見を助長しそうな部分や、(笑)のツボが合わない部分も多数あり大手を振ってお薦めできない。
精神医療について考えたのなら、この映画より、実話ベースの『むかしmattoの町があった』というイタリアのTV映画をぜひご覧になってほしいと思う。自主上映か、大熊一夫氏の著作についているDVDでしか鑑賞できないのがもったいない。