グッド・シェパード : 映画評論・批評
2007年10月9日更新
2007年10月20日より日劇1ほかにてロードショー
アメリカ史の側面をスパイの目を通して描く重厚なスリラー
原題(The Good Shepherd)が意味するのは、国家の“忠犬”となった男を暗示する“良い(犬の)シェパード”ではなく、新約聖書ヨハネ福音書にある「“良い羊飼い”は羊のために自分の命を犠牲にします」という一節の引用だ。羊とは国家の理性とも読める。
前作「ブロンクス物語」をセンチメンタル・ムードで描いたロバート・デ・ニーロ監督は、第2作目で相当に重厚な題材に斬り込んだ。「フォレスト・ガンプ」「ミュンヘン」の脚本家エリック・ロスによる物語は、イェール大学の学生だった青年(マット・デイモン)がCIAの前身だった諜報活動組織にリクルートされ、やがて冷戦時代が生んだキューバ危機でCIAのナンバー2として裏外交をめぐらす61年までの約30年間に及ぶアメリカ史の側面が、そのエリートスパイの目を通してつむがれる。ロングショットを多用したカメラはおよそ3時間、ゆったりと重厚な動きで時代を往き来する(それが好き嫌いの分かれるところ)。歴代のアメリカ大統領を多数輩出するエリートの秘密結社スカル&ボーンズの秘密やCIA最大の危機であるピッグス湾事件の真実など、興味深いエピソードばかり。
レオナルド・ディカプリオの代役と巷間伝えられているマット・デイモンは、時代を映すメガネの奥に冷徹な目を隠して(“心”を閉じこめて)ストイックに好演している。
(サトウムツオ)