「圧倒的な暴力の中で活きる様を描いた傑作」パンズ・ラビリンス とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
圧倒的な暴力の中で活きる様を描いた傑作
拷問や殺人などが満載ですが、グロい場面はありません。
さわりだけ見せる。それが半端なく怖い。
暗示・ちら見せ。そして間。常に、いつ暴力が始まるのか、なんでもない場面でさえハラハラドキドキ。凍り付いた緊張感の持続…。
ハッピーエンドか、バッドエンドか。評価が分かれている。
ファシズムが横行する世界。人物造形は単純に絞りこんでいる。スペイン内乱の背景などは割愛。
力のみを信じて生きる者。
その力にすがったり、長いものに巻かれろ的に生きる者。
反抗する者。
そんな大人たちの中で生きる子ども。
ダ―クファンタジーの世界は子どもが創りだした空想なのか、
大人が現実としているもののすぐ側に開かれている異世界なのか。
現実は徹底的に容赦なく。
かといってファンタジーが甘く切なくかというかとそうでもない。そもそもパンは味方なのか、オフィリアを騙す悪魔なのか。そこもハラハラドキドキ。
何が正しくて、何が幸せに繋がるのか、常に惑わされる世界。
心の正義に従えば命の危険にさらされるし、命大事とすれば心を喪う。
これこそがラビリンス。
その表現力があまりにも見事で”ダークファンタジー”に分類されるが、果たしてそうなのか?
役者・演出・映像・脚本・音楽すべてすばらしい。
その中でもとくにビダル大尉を演じられたロペス氏(映画ごとに印象が違う)。
異世界の場面も、子どもの周りの大人たちの動向をもしっかりと描き切ったことで、上質の作品になった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ここではファシズム下の物語だけど、
虐待やいじめを受ける子供達の世界ってこんなんなんだろうなと思った。
虐待を受ける子供達は解離する、白昼夢を観る、嘘をつくって言う。
虐待の外に生きる私達にとってはファンタジーだけど、その中に生きる子供にとっては生き残る為に必要な現実。
そんな状況から目を背けていいのか、自分に問うてしまう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
たくさんの大人に観てもらいたい。
でも、子どもには…、異世界部分だけ編集して見せたいかなと思う。
けれど、子どもに見せたくない現実って…、そんな世界を失くしたいと誓う。