劇場公開日 2007年10月6日

パンズ・ラビリンス : 映画評論・批評

2007年10月2日更新

2007年10月6日より恵比寿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町1丁目にてロードショー

“人間にはなぜ物語が必要なのか”という問いへの答えを提示

過酷な現実を生きる少女が出会った牧羊神パンは、彼女にささやく、「あなたは本当は魔法の王国のプリンセス。3つの試練を果たせば王国に帰れます」。だが、この牧羊神が招く地下の迷宮は恐怖に充ちている。そこは血と泥に塗れ、妖精の羽は萎れて体は乾涸らび、掌に眼を持つ肥大化した胎児のような異形の者が追いかけてくる。これは、読書好きの少女が現実から逃れるために創った世界ではない。もちろん、彼女は物語を必要とするが、それは物語というものの力が、現実を凌駕することがあるからなのだ。人間にはなぜ物語が必要なのか。監督ギレルモ・デル・トロのこの問いへの答えがこれだ。

そのうえで、幾重にも重ねられた多彩なモチーフが映画を豊かにする。牧羊神パンのキリスト教伝播以前の森の土着神としての顔。幼児だけが持つ母親への無条件の憧憬と賞讃。女としての母。歪められた子供としての義父。ゲリラ軍の姉と弟の愛。そしてそれらの通底音として流れるのは、少女の性の目覚めの予感だ。少女が開く未来を記された魔法の本は血に染まり、母の下半身は血に染まり、母のベッドの下のマンドラゴラの根は蠢く。初潮を迎える寸前の少女だけが持つ無意識の不安と恐怖が、迷宮の血の匂いを濃密にし、同時に彼女の無垢さをより輝かせている。

(平沢薫)

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