サウスバウンド(2007) : 映画評論・批評
2007年10月2日更新
2007年10月6日よりアミューズCQN、新宿ガーデンシネマほかにてロードショー
いまや珍獣ともいえる左翼親父にスカッとさせられる
アクション映画じゃないのに、ハラハラドキドキさせられるとは思わなかった。まずは原作の力だ。奥田英朗の同名小説を映画化した本作は、元過激派親父・一郎(豊川悦司)が、「税金を納めろ」と督促に来る役人や、高額な修学旅行費を請求してきた子供たちの学校、果ては移住先の沖縄・西表島の開発に躍起になっている業者にまで、いちいち楯突く社会派コメディ。家族にとっては問題を引き起こす迷惑この上ない親父だが、右翼化傾向が強まる今の日本において、左翼親父はいまや珍獣であり理想。たった一人で権力者を倒していく暴れっぷりに、スカッとさせられる。
そんな原作の面白さをギュッとまとめたストーリーはもちろん、手に汗握ったのは他でもない、大人びたセリフに悪戦苦闘している子役や、気合いの入りまくった島民たちの芝居。豊川や天海祐希らプロの役者たちとのリズムの違いに戸惑うが、次第にこれがクセになる。無垢な彼らの存在が、監督歴29年の森田芳光監督の調子をも狂わせたようで、森田作品の特徴とも言える大仰な演出は、今回、一郎が異議を唱える時に言う決め台詞「ナンセンス!」という、その台詞こそナンセンスなシーンぐらい。逆に言えば、森田作品らしさはあまり感じないが、それもまた新鮮。娯楽作として誰もが楽しめる作品に仕上がった。
(中山治美)