ONCE ダブリンの街角でのレビュー・感想・評価
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容赦のないダメ男映画としても出色
名作の多い音楽映画の中でも指折りに大好きな作品を、日本最終上映ということでスクリーンで再見。次作『はじまりのうた』以降は商業映画である責任を背負った感のあるジョン・カーニーだが、本作は低予算で作られたというだけでなく、インディペンデントならではの粗さが目立つが、むしろ磨かれすぎてない宝石に直接触れられるような手作り感になっているのが良い。本職のミュージシャン2人を主演に迎え、楽曲制作を任せたのも素晴らしく、音楽絡みのシーンはすべて生もののような説得力が宿っているし、音が重なることによって音楽が生み出されていく興奮を伝えてくれる楽器屋と録音スタジオの名シーンは凡百の音楽映画からも抜きん出ている。あと、主人公の男のダメさ、情けなさ、ヘボさ、あわよくばを狙うしつこさを、これでもかと曝け出すように描いていて、容赦ないダメ男映画としても一級品だと思う。
back numberを再発行
評判の良さは小耳にはさんでおり、「日本最終上映」とあって鑑賞。
ミュージカルではないけど、ミュージカル並に歌ってる。
“挿入歌”というより、曲の合間にストーリーが挿し込まれているようなバランスだった。
必然的に台詞も少なく説明も無い。
また、画質はホームビデオのようで、カメラも手ブレやズームの揺れが激しい。
しかしこれらが実在感に繫がっており、ドキュメンタリー以上に“記録映像”の趣があった。
だから“男”の母が亡くなってることや“女”の隣人がテレビを見にくることにも“設定”感がない。
くっつきそうでくっつかない展開がもどかしく、しかし雰囲気は抜群にいい。
どう展開するのかと思えば、結局“男”は元カノと夢を、“女”は夫と現実を取るというオチ。
正直、映画として見ると盛り上がりには欠ける。
だが先述の“記録映像”的な作風から、ふたつの“人生”を見た印象で感触は悪くない。
“男”の「夫を愛してるか」という問いに“女”が返した「Miluju tebe」の意味を知るとより感慨深い。
(チェコ語で「私が好きなのはあなたよ」らしい)
レコーディングまでの日数は不明だが、バンドアレンジに練習まで考えると無茶だとは思う。
しかもパート録りでなく一発録りという。笑
まぁそんなことは些事に感じるし、演者の表情やカットの繋ぎで見せる構成も見事だった。
楽器店の店主やレコーディングエンジニアの表情が変わるところや、銀行融資係が歌い出すとこが好き。
気持ちをのせた曲が雄弁に物語る、優しくて切ない素敵映画
冒頭のエピでこのギターを弾く男を好きになる。そして女は掃除機を引きずって歩くマイペースで、でもまっすぐな瞳が魅力的。2人のセッションやレコーディングの光景、彼らの気持ちを載せた曲が、優しくて雄弁。傍からみたら、お前らつきあっちゃえよって思うけどでも現実はそう簡単じゃない。リアルだってそう。彼らは、知り合い、盛り上がり、楽しみ、そしてお互いの人生をちょっと後押ししあったんじゃないか。束の間の彩り、かけがえのない思い出の一つも残して。うーん染みるなあ。
ラストシーンの彼女の姿がとてもよくていい映画を観たなという気持ちにさせられた。多くの人が好きだという作品はやはり愛されるのがわかるってことが多いな。
3部作の中で一番好き
「シングストリート」「はじまりのうた」と逆順に観てきて、いよいよ本作を鑑賞。3本の中では、一番好きかもしれない。
明らかに低予算で、外での撮影はゲリラだということが後ろの人たちの反応からもわかるが、逆にそれがホームビデオのような臨場感をたたえていて、このストーリーにしっくりきた。
ミュージカルでは決してないのに、全編の3分の2以上は楽曲で埋まり、歌詞が人物たちの気持ちを代弁していく。
曲作りのシーンでは「相手(といっても元カノや別居中の夫だったりもするのだが)への募る思い」が、そして、楽器やコーラスが重なっていく演奏シーンでは、徐々に深いところで響きあい始める2人の関係性が、見事に描かれていた。
<この先、結末に触れますので、ご注意下さい>
この作品が、3本の中で一番好きと思う理由は、「安易に2人が結ばれないこと」に尽きる。
「もう、絶対に惹かれあってるじゃん!」と観ているこっちは身悶えもするが、刹那的な行為に走らず、大人な判断ができる2人であるところがいい。
互いに心の中に別の人がいるうちは…という、自らへの誠実さと、相手を思う抑制的な姿にグッときてしまう。
それから、女のお母さん、男のお父さん、どちらもわずかな登場ながら、揺るがない自分を持つ、とても魅力的な人たちだった。
お父さんは、息子に渡した餞別が、彼女のためのピアノに変わったことを知っても、きっと許してくれることだろう。
マルケタ・イルグロバの魅力全開
ジョン・カーニー監督の『はじまりのうた』も先月鑑賞して、そこそこ気に入ったので
本作も日本最終上映とのことなので、劇場で観たい!ということで鑑賞した。
主役のグレン・ハンサードよりもマルケタ・イルグロバの魅力が圧倒的で
私が最後まで楽しめたのは彼女のおかげである。
彼女のセリフや佇まいでは、そりゃあ主人公も好きになるだろうと思うが、
彼女はそこまで主人公のことを好きではなかったのか、完全に一線を引いていた。
主人公が女々しくもずっと言い寄っていたが、一切ぶれなかった。すばらしい(笑)
ただ、ピアノのプレゼントにはグッときたはずだし、忘れられない存在にはなったはず。
主人公も最後には元カノを取り戻すことにがんばろうとしていた。吹っ切ったんだろうな。
この作品の楽曲はさほど好きではない。『はじまりのうた』も楽曲にはハマらなかった。
ただ、レコーディングシーンやギターとピアノでハモりながら歌う前半のシーンは好き。
他、好きなシーンは、バスの中で主人公が話すのを躊躇したことを歌にのせながら歌詞
として話したり、ふたりでバイクで丘からの景色を見に行ったり、
主人公の父親にレコーディングした楽曲を聴かせたり、
映画っていいなとあらためて思った。
やはり音楽がメインで扱われている映画は、劇場で全身で音を浴びながら観るのが幸せ。
「tiny desk」みたいな録音風景が楽しい
ストリートミュージシャンの男性と移民の女性が出会い、一緒に音楽を作り上げていく。
女性はミュージシャンに、「彼女はいる?」などと、個人的なことをしつこく聞く。
そのせいもあって、ミュージシャンは女性を、ただの音楽仲間以上の存在、と意識してしまう。
これは気の毒だ。
楽器店で女性が、メンデルスゾーンの「舟歌」を弾いた時、ミュージシャンは「自分で作ったの?」と聞く。ピアノを習いたての子どもが発表会で弾くような有名な曲なのに、知らない。
住む世界の違いを暗示しているシーンと受け取った。
終盤、女性の夫から立派なピアノが届き、「やはり」という感じ。
録音スタジオで、友人達を加えてのセッション風景は、ちょっとtiny deskに似ていた。
録音エンジニアは、ECM の偉い人に感じが似ていた。
「音にうるさい人の顔」って何か共通したものがあるのかな。
素朴で自然、曲の数々が心に沁みた
ドキュメンタリーではないけれど、登場人物が素朴で自然で味わいがあります。
ダブリンの街角の描写も雰囲気がありいい感じ。
アイルランド出身のグレン・ハンサードの話す言葉が、ダブリンの街っ子らしく自然に感じた。
しかめっ面の銀行の融資責任者、めっちゃ歌と演奏上手いやん!
理解ある人で良かった。
理解があるのか無いのか分からないパパが、デモテープ聞いて絶賛、息子の夢を応援するところ、父の愛がしみしみ刺さりました。
二人がうれしそうだと私もうれしくなり、応援したくなった。
グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロバのふたりの、映画のキモである音楽シーンがどれも大変力強く心に響いて聞き入ってしまい、音楽ができるって、本当に素晴らしいことで、うらやましい。
恋愛感情あってもそれ以上にせず一線を越えず、友情を持ったまま、二人がそれぞれの道を歩むことにするのがとても良かった。
日本最後の公開とのことで、映画館で観られて本当に良かった。
心洗われました。
主人公の取る選択が琴線に触れる。
掃除機(しょうじき)散歩ww
掃除機で散歩
君が選んだ道にたどりつけるはずだから
ミュージックビデオのような、ドキュメンタリーのような不思議なタッチ。
手ぶれも映り込みもなにも気にせず切り取ったダブリンの日常。
名も無き男と女が路上で出会い、音楽を通じて心通わせ、距離を縮める。
それぞれに忘れられない女と男への思いを抱えながら、綴り、奏で、歌う。
無口な2人。彼と彼女の思いは、セリフではなく、歌詞で表現される。
半分ほど観て、ようやく気づいた。これはミュージカル映画なんだ。
エモーショナルな演奏も、ダンスもない。なのに、観る者の心にじわじわと染み入るように入ってくる男と女の感情。
既成概念を覆す、新しいミュージカル映画。
girl(女)を演じるマルケタ・イルグロバがとても魅力的。
ちょっと不思議な雰囲気と人懐こさ。初対面で聞きにくいことをぐいぐい聞いてきてもちっとも不快感がない。芯の強い母親だけど、ピアノやバイクを前に、無邪気な少女のような一面を魅せる。
彼女が寝間着のまま歩きながら夜道で歌うシーンが好きだ。仄暗い住宅街。路上駐車の車の列。滲むオレンジ色の街灯。手に持つCDプレーヤーと歌詞を書いた紙。モフモフのスリッパ。何故だかとても愛おしくなる。
たった一度のレコーディング。
縮まった心の距離は、それ以上縮まることなく、2人は別れる。
それぞれが、それぞれの新しい生活を始める。
何か大きな出来事が起きそうな予感はしない。しかし、笑顔でロンドンに向かう男と、その男に贈られたピアノを弾く女が笑顔で見つめる窓の外の景色は、音楽と共にある2人の日常が、これからもずっと続くことを感じさせるような希望に満ちた色をしていた。
「希望に満ちた声を上げよう 君が選んだ道に たどりつけるはずだから」
心に残る、素晴らしい映画でした。
音楽長っ
音楽が主役の素朴でつつましい佳編
音楽を通じて出会う男女 歌は身近な生活の中に息づくみんなのもの
ダブリンの街角で出会ったストリートミュージシャンの男とピアノを弾く女。
やがて孤独だった二人は、音楽を通じて心を通わせていく。
二人だけではなく、その親戚たちはまた皆が集まった席では歌い、食事とともに日常の中で音楽を楽しむ。
音楽は、有名ミュージシャンのためのものではなく、もっと身近な存在であることが描かれる。
そして男はデモ音源をスタジオで収録するために、同じストリートミュージシャンを集める。
演奏のために集まった人々が、共に演奏し、また分かれていく。
男女二人もそれぞれ問題を抱えながら、引かれながらも結ばれず、それぞれの人生をいきる。
楽しくもあり、少しほろ苦くもあり、人と音楽の関りの根っこの部分を見つめ直す作品でした。
25-090
演奏しているギターは本体に大穴が空いている
5拍子の When Your Mind's Made Up めっちゃ好き♪
ワタクシは、5拍子の曲が大好物。
ミッション:インポッシブルしかり。
デイヴ・ブルーベックの「テイク・ファイブ」しかり。
ホルストの「火星」またしかり。
そしてこの映画の中の When Your Mind's Made Upも5拍子。
これ、めっちゃ好き♪
* * *
新宿ピカデリー他でリバイバル上映中。
最近、再上映が増えてるのは、新しい洋画が不作だからかなぁ、
などと思いつつ眺めてたら、
あれ? これ、観たと思ってたけど、観てないじゃん、と気づき。
でも上映時間が都合悪いな、と思ってたんだけど、
アマゾンでレンタルできることを知り、300円で借りて観た。
「はじまりのうた」「シング・ストリート」の監督の、出世作。
どっちも、大満足した作品。
そしてこの「ONCE」も、大満足。
* * *
まず、登場人物のキャラがいい。
主な2人はもちろん、
その父、母、楽器店の主人、スタジオのエンジニア、移民の同居人に至るまで、
冒頭のコソ泥若造を除いて、みな愛すべき人柄。
(その若造も、根っから悪い奴というわけではなさそう)
主人公が街頭で歌ってる姿を、手持ちカメラがはじめ遠目で、そしてだんだん近づき、うーん、これって誰かの視線かな、と思ってたら、再びカメラが遠ざかると若い女性がそこにいる。
上手い。
その女性が手に持ってるのは、失業者がそれを売って生活の足しにできるようにと販売されてる雑誌。
発音からしても、どうやら定職が見つからない移民らしい。
という始まり方が、ニクイ。
それから、細かいことは省くけど、主人公がいちおう家電の修理の仕事をしてる、と聞いて、修理してほしいと翌日持ってきた掃除機を、まるで散歩中のワンコみたいに引っ張って歩くのが、可愛くて笑えた。
で、未見の方はぜひご覧になってほしいんだけど、
ここから物語は、ある程度予想通り、でもかなりの程度は予期に反して、動いていく。
その予想の裏切り方もまた心地よい。
ちなみに、エンドロールで驚いた。
主役の男女の役名が、boyと、girl。
そういえば、1回も名前を呼んでなかったわ。
そして「once」にも、意味があった。
上手い。
* * *
それから何といっても、歌。
冒頭に挙げたほか、
オスカーを獲得した主題歌 Falling Slowlyなど、いい曲が目白押し。
それに、セッションは楽しいよね♪
ただ、chorusの字幕が「コーラス」になってたけど、そこは「サビ」でしょ。
掃除機じいさんカッコいいじゃないか
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