ONCE ダブリンの街角でのレビュー・感想・評価
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容赦のないダメ男映画としても出色
名作の多い音楽映画の中でも指折りに大好きな作品を、日本最終上映ということでスクリーンで再見。次作『はじまりのうた』以降は商業映画である責任を背負った感のあるジョン・カーニーだが、本作は低予算で作られたというだけでなく、インディペンデントならではの粗さが目立つが、むしろ磨かれすぎてない宝石に直接触れられるような手作り感になっているのが良い。本職のミュージシャン2人を主演に迎え、楽曲制作を任せたのも素晴らしく、音楽絡みのシーンはすべて生もののような説得力が宿っているし、音が重なることによって音楽が生み出されていく興奮を伝えてくれる楽器屋と録音スタジオの名シーンは凡百の音楽映画からも抜きん出ている。あと、主人公の男のダメさ、情けなさ、ヘボさ、あわよくばを狙うしつこさを、これでもかと曝け出すように描いていて、容赦ないダメ男映画としても一級品だと思う。
素朴で自然、曲の数々が心に沁みた
ドキュメンタリーではないけれど、登場人物が素朴で自然で味わいがあります。
ダブリンの街角の描写も雰囲気がありいい感じ。
アイルランド出身のグレン・ハンサードの話す言葉が、ダブリンの街っ子らしく自然に感じた。
しかめっ面の銀行の融資責任者、めっちゃ歌と演奏上手いやん!
理解ある人で良かった。
理解があるのか無いのか分からないパパが、デモテープ聞いて絶賛、息子の夢を応援するところ、父の愛がしみしみ刺さりました。
二人がうれしそうだと私もうれしくなり、応援したくなった。
グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロバのふたりの、映画のキモである音楽シーンがどれも大変力強く心に響いて聞き入ってしまい、音楽ができるって、本当に素晴らしいことで、うらやましい。
恋愛感情あってもそれ以上にせず一線を越えず、友情を持ったまま、二人がそれぞれの道を歩むことにするのがとても良かった。
日本最後の公開とのことで、映画館で観られて本当に良かった。
心洗われました。
主人公の取る選択が琴線に触れる。
掃除機(しょうじき)散歩ww
掃除機で散歩
君が選んだ道にたどりつけるはずだから
ミュージックビデオのような、ドキュメンタリーのような不思議なタッチ。
手ぶれも映り込みもなにも気にせず切り取ったダブリンの日常。
名も無き男と女が路上で出会い、音楽を通じて心通わせ、距離を縮める。
それぞれに忘れられない女と男への思いを抱えながら、綴り、奏で、歌う。
無口な2人。彼と彼女の思いは、セリフではなく、歌詞で表現される。
半分ほど観て、ようやく気づいた。これはミュージカル映画なんだ。
エモーショナルな演奏も、ダンスもない。なのに、観る者の心にじわじわと染み入るように入ってくる男と女の感情。
既成概念を覆す、新しいミュージカル映画。
girl(女)を演じるマルケタ・イルグロバがとても魅力的。
ちょっと不思議な雰囲気と人懐こさ。初対面で聞きにくいことをぐいぐい聞いてきてもちっとも不快感がない。芯の強い母親だけど、ピアノやバイクを前に、無邪気な少女のような一面を魅せる。
彼女が寝間着のまま歩きながら夜道で歌うシーンが好きだ。仄暗い住宅街。路上駐車の車の列。滲むオレンジ色の街灯。手に持つCDプレーヤーと歌詞を書いた紙。モフモフのスリッパ。何故だかとても愛おしくなる。
たった一度のレコーディング。
縮まった心の距離は、それ以上縮まることなく、2人は別れる。
それぞれが、それぞれの新しい生活を始める。
何か大きな出来事が起きそうな予感はしない。しかし、笑顔でロンドンに向かう男と、その男に贈られたピアノを弾く女が笑顔で見つめる窓の外の景色は、音楽と共にある2人の日常が、これからもずっと続くことを感じさせるような希望に満ちた色をしていた。
「希望に満ちた声を上げよう 君が選んだ道に たどりつけるはずだから」
心に残る、素晴らしい映画でした。
音楽長っ
音楽が主役の素朴でつつましい佳編
音楽を通じて出会う男女 歌は身近な生活の中に息づくみんなのもの
ダブリンの街角で出会ったストリートミュージシャンの男とピアノを弾く女。
やがて孤独だった二人は、音楽を通じて心を通わせていく。
二人だけではなく、その親戚たちはまた皆が集まった席では歌い、食事とともに日常の中で音楽を楽しむ。
音楽は、有名ミュージシャンのためのものではなく、もっと身近な存在であることが描かれる。
そして男はデモ音源をスタジオで収録するために、同じストリートミュージシャンを集める。
演奏のために集まった人々が、共に演奏し、また分かれていく。
男女二人もそれぞれ問題を抱えながら、引かれながらも結ばれず、それぞれの人生をいきる。
楽しくもあり、少しほろ苦くもあり、人と音楽の関りの根っこの部分を見つめ直す作品でした。
25-090
演奏しているギターは本体に大穴が空いている
5拍子の When Your Mind's Made Up めっちゃ好き♪
ワタクシは、5拍子の曲が大好物。
ミッション:インポッシブルしかり。
デイヴ・ブルーベックの「テイク・ファイブ」しかり。
ホルストの「火星」またしかり。
そしてこの映画の中の When Your Mind's Made Upも5拍子。
これ、めっちゃ好き♪
* * *
新宿ピカデリー他でリバイバル上映中。
最近、再上映が増えてるのは、新しい洋画が不作だからかなぁ、
などと思いつつ眺めてたら、
あれ? これ、観たと思ってたけど、観てないじゃん、と気づき。
でも上映時間が都合悪いな、と思ってたんだけど、
アマゾンでレンタルできることを知り、300円で借りて観た。
「はじまりのうた」「シング・ストリート」の監督の、出世作。
どっちも、大満足した作品。
そしてこの「ONCE」も、大満足。
* * *
まず、登場人物のキャラがいい。
主な2人はもちろん、
その父、母、楽器店の主人、スタジオのエンジニア、移民の同居人に至るまで、
冒頭のコソ泥若造を除いて、みな愛すべき人柄。
(その若造も、根っから悪い奴というわけではなさそう)
主人公が街頭で歌ってる姿を、手持ちカメラがはじめ遠目で、そしてだんだん近づき、うーん、これって誰かの視線かな、と思ってたら、再びカメラが遠ざかると若い女性がそこにいる。
上手い。
その女性が手に持ってるのは、失業者がそれを売って生活の足しにできるようにと販売されてる雑誌。
発音からしても、どうやら定職が見つからない移民らしい。
という始まり方が、ニクイ。
それから、細かいことは省くけど、主人公がいちおう家電の修理の仕事をしてる、と聞いて、修理してほしいと翌日持ってきた掃除機を、まるで散歩中のワンコみたいに引っ張って歩くのが、可愛くて笑えた。
で、未見の方はぜひご覧になってほしいんだけど、
ここから物語は、ある程度予想通り、でもかなりの程度は予期に反して、動いていく。
その予想の裏切り方もまた心地よい。
ちなみに、エンドロールで驚いた。
主役の男女の役名が、boyと、girl。
そういえば、1回も名前を呼んでなかったわ。
そして「once」にも、意味があった。
上手い。
* * *
それから何といっても、歌。
冒頭に挙げたほか、
オスカーを獲得した主題歌 Falling Slowlyなど、いい曲が目白押し。
それに、セッションは楽しいよね♪
ただ、chorusの字幕が「コーラス」になってたけど、そこは「サビ」でしょ。
掃除機じいさんカッコいいじゃないか
鑑賞動機:Apple music のサウンドトラックのプレイリストにいっつも出てくるのだよね。10割
過去作を劇場で再上映してくれるのはやっぱりありがたい。
手持ちカメラ中心で手作り感は強いが、音楽についつい聴き入ってしまう。
バンドメンバーやスタジオのディレクターみたいな人はもしかして本物の人?
これでよかった? …これでよかったんだと思う。またこれも一つの選択。アイルランドはやっぱり何か心地よさを感じる。
マルケタ・イルグロバが魅力的
アイルランド・ダブリンの街角でストリートミュージシャンとしてギター弾きながら歌ってた男の前に、チェコからの移民の女が現れた。彼女と話すうち、掃除機の修理依頼を受け、次の日、壊れた掃除機を持って彼女が現れた。修理をするため家に帰る途中の楽器店で彼女が弾くピアノにほれ込んだ男は、彼女のために曲を書き、2人はセッションを楽しんだ。孤独だった2人は・・・さてどうなる、という話。
良い関係になってたから最後は・・・と思ったら外れた。
髭面ミュージシャンのグレン・ハンサードも悪くはなかったけど、移民女役のマルケタ・イルグロバがチャーミングだった。
この作品は2007年公開ということは、2025年現在、37歳の彼女が18歳か19歳の時の撮影だと思うが、大人びた中に可愛さが有って素敵だった。
ラスト、夫と同居する事になってピアノが届き、窓の外を眺める彼女のシーンが魅力的だった。
こころに染みる切なさと温もりのある音楽が映像と共に奏でられる心地良さ
「はじまりのうた」(2013年)でお気に入りの監督になったジョン・カーニーの公開当時大評判を呼んだ世界デビュー作を漸く見学しました。ダブリンに住むストリート・ミュージシャンの男性とチェコからアイルランドに移住した音楽の才能豊かな女性の一期一会のショート・ストーリーの音楽映画。驚いたのは、心に染み入るような切なさと人肌の温もりのある音楽(洋楽に疎いためジャンルも分からず、上手く説明できないのがもどかしい)の親しみ易さと、手持ちカメラの即興的で作為の無いカメラワークの、それでいて生活感をそのまま映し出したようなアングルの自由さと的確さも兼ね備えた撮影の素晴らしさでした。技巧的には演出も撮影も「はじまりのうた」の方が洗練されていて骨格が確りしているし、個人的に古典映画好きの嗜好に合っています。でもどちらが優れているというより、音楽に合わせた映像作りの違いと言えるでしょう。「はじまりのうた」は音楽を楽しむように映像作りがなされていて、この「ONCE」は映像と音楽が一緒に奏でられていました。それは登場人物がいる空間の中に観る者が一緒に存在して、彼らの一挙手一投足を見詰める親近感を醸成しています。
この映画から想い出すのが、クロード・ルルーシュ監督の「男と女」(1966年)、そして高校生時代の青春のバイブル、アーサー・バロン監督の「ジェレミー」(1973年)の2作品です。前者は男女の微妙な恋愛心理をボサノバの独特なリズムで伴奏する、斬新さと色香がありました。訳あり男女の心理的変化を丁寧に扱い、制作費の少なさと音楽の活かし方が近いです。お金を掛ければ良い映画ができる訳でもなく、制作費が少なくても音楽を味方にすれば心地良い映画作品ができあがることを証明しています。後者は、高校生男女の儚い初恋の別れを切ない音楽で抒情的に描いたセミ・ドキュメンタリータッチの身近に感じる青春もので、この映画の質素で巧みに構成された展開の自然な流れに音楽の持つ魅力が絶妙に調和している点で似ています。
何気ない日常の生活シーンでいいのは、女性が故障した掃除機を引っ張りながら行きつけの楽器店を訪れ、メンデルスゾーンのクラシックに続いて自作をギターで弾く男性にピアノを合わせていくところです。二人を囲む様々な楽器とモーツアルトとベルディのポスターが貼ってある音楽が溢れるローケーションと、そこに掃除機がある生活感、何とも言えない味があります。この“フォーリング・スローリー”と言う、飾り気無くシンプルで柔らかな甘さもある曲がいい。それにしても使い込んだギターの穴が開いた状態は気にならないのでしょうか。彼の家で掃除機を修理して、二人だけになってから気まずい思いをするも、翌日仲直りして今度は彼女の家を訪ねるシークエンスでは、移民家族の生活感が良く出ています。母親と子供、それにテレビを観に来るチェコ青年3人の人物の動きとチェコ語の響き。そして男性の曲に作詞するシーンがまたいい。CDデッキの電池切れで街に出て、女性が歩きながら歌うその夜の街の風景。“イフ・ユー・ウォント・ミー”のミュージック・ビデオのような趣があります。この演出タッチは、男性が裏切られて別れた女性を想いながら曲作りするシーンのフラッシュバックで更に切なさが募ります。このアップで押し通した淡くぼやけた色彩の映像が“ライズ”の曲と見事に融合している巧さは、実に音楽的と言えるでしょう。
後半はロンドンに進出するためのデモテープ録音のエピソードがクライマックスになり、バンドメンバー3人が加わった本格的な曲作りを丁寧に再現してくれます。
主演のグレン・ハンサードとマイケタ・イルグロヴァのお二人は実際の音楽家でありながら、無理のない自然な演技でした。表現者として優れた歌手も、歌いながら演じることを身に付けていると思えば当然かも知れません。カーニーの演出との相性も良かった。これは本格的な音楽映画を目指したキャスティングが嵌り、演出家ジョン・カーニーの音楽的素養が映画の世界で開花した珠玉の作品と言っていいと思います。
もやもや、もやっと
穏やかで自然で透き通っているけど ほろっと苦い…私は大好きな作品で...
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