劇場公開日 2009年8月8日

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「 西部劇が作られなくなった昨今。ストーリーで減点はしましたが、骨太の映画がお好きな方には、間違いなくお勧めできる1本です。」3時10分、決断のとき 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 西部劇が作られなくなった昨今。ストーリーで減点はしましたが、骨太の映画がお好きな方には、間違いなくお勧めできる1本です。

2009年8月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ラッセル・クロウが、いいですね。かっこいいし、彼が演じるウェイドは悪役でもヒーローに見えてしまいます。あの低音のだみ声で、早撃ちを仕掛けるところは男だからこそ、痺れるシーンでしたね。

 ウェイドは、駅馬車強盗22件、殺した人の数は数え切れないという強盗団のボスとして、人を殺すときは、たとえ仲間でも躊躇なく、無慈悲に殺すのです。
 けれども、自分が意気に感じた相手には、自分のためにと言い訳しつつ、助けたりもします。極悪人のくせに、根っこでは任侠を忘れていない、木枯らし紋次郎見たいなヤツでした。

 例えば、一味が駅馬車を襲う現場を目撃したダンについては、一時馬を奪うだけで、命を助けてやり、そのあと馬まで返してしまう親切さだったのです。
 ダンとの出会いは、その後のウェイドの運命を変えていきます。このとき殺さなかったのは、そんな宿命を感じたのも知れません。あるいは、ダンという男の背負っている影に自分と同じものを感じてしまったのも知れません。

 ラストの信じがたいウェイドの決断に向けた必然性に、ダンという男の存在、そして南北戦争によって片足を失った過去の経緯の秘密がどうしても必要でした。
 戦争でもまともな功績が上げられず、わずかな補償金を手に、北軍をお払い箱にされたダン。彼はその後牧場に戻っても、借金に苦しみ、土地を手放す寸前に追い詰められたとき、息子や世間に対して、何としても自分の存在感を示すことを痛感していたのでした。 そんなダンの負い目を冒頭の登場時からクリスチャン・ベールが全身で漂わせていました。射撃の腕なら人に臆することがないほど、西部劇のヒーローになり得るのに、ダンのイメージは、弱々しい小市民なのです。本作のクリスチャン・ベールは、没ヒーローという役どころを見事に表現しておりました。

 ダンの弱さを見抜き、救おうとしたのがなんとウェイドでした。悪党がなんで人を助けようとするのか?実は彼は日々の祈りを欠かさない敬虔なクリスチャンだったのです。
 だから刃向かってくるものには、銃弾を惜しまず浴びせるが、縁あって悩みを聞いてしまった者については、命がけでも救おうとします。それでもラストの彼の行動には、そこまでするか?という疑問は感じてしまいます。ここは敢えて伏せておきますので、ぜひご覧になってください。

 加えて、あまりに簡単にウェイドが捕まってしまったり、すぐ殺さず護送を決定するところにイマイチ説得力がありません。さらに、要所でそれはないよ~とか、都合良すぎ~とか突っ込みたくなるところは多々ありました。まぁ、演技の方で、脚本のアラは、カバーできているとは思いますけど・・・。

 あら探しはさておき、本作が昔の西部劇と大きく異なるのは、「正義のゆくえ」です。 単純に、ウェイドとダンの関係を善と悪との対比に置くのでなく、微妙に「訳あり」にしているところが面白いところ。それは911以降のアメリカ政府が正義を振りかざすことに対して、皮肉とも言える内容ではないでしょうか。

 その皮肉を劇中ウェイドに語らせています。自分の殺人を断罪するものたちへウェイドは、じゃあアパッチの婦女子を虐殺した騎兵隊の奴らは、罪にならないのかと食い下がります。きっとウェイドには、単なる強盗とは違った、権力に対する痛烈な反発があったのでしょう。彼を追い詰めた過去については、触れられていません。少し彼の過去についても押さえておけば、もっとラストの意外性について、説得力も増したはずです。

 また鉄道建設に中国人移民をこき使っているところも印象的でした。

 でも、本作が一番描きたかったシーンは、ウェイドがダンに大金を払うから見逃してくれというシーンではないでしょうか。一瞬躊躇しつつも、拒否して任務を遂行しようとするダンの決断に監督のメッセージが潜んでいるものと思います。
 それは、正義というものが見えにくくなった世の中にあって、物欲に目が眩み、打算ばかりで世渡りしていくよりも、名を惜しみ、意義ある人生を送る方が、同じ生きていて悔いが残らないではないかというものです。

 きっとダンの決断とそうするしかなかった事情に、皆さんも共感されることでしょう。

 西部劇が作られなくなった昨今。ストーリーで減点はしましたが、骨太の映画がお好きな方には、間違いなくお勧めできる1本です。

 とにかくラストのユマ行き列車が到着する『3時10分』に何が起こったのか目撃してください。
 最後にもひゅ~と口笛で愛馬を呼び寄せるシーンで終わってしまって、ウェイドが××する続きが見たかったです。

流山の小地蔵