「余韻がハンパない」長江哀歌(エレジー) Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
余韻がハンパない
時に静謐に、時に破壊的に世界を確かなまなざしでとらえたペドロ・コスタの『ヴァンダの部屋』を思わせるドキュメンタリーのような雰囲気。
淀川長治は「いい映画には必ず庶民の生活が描かれていて、そこに今がある。今の映画を見なければいけない」と言っていた。まさにジャ監督は、中国で現在(当時)起きている問題を庶民の目線で描いてくれた。
こだわり抜いたショットから監督の被写体への愛を感じる。
人々は、煙草、酒、茶、飴の甘渋い味をほどこし合う。相互作用性と並列性が、人間の意識や心を組み立てている最も重要な特徴であることを二人の主役の道筋で論証する。
他者や異郷との親密な心情の交換、自身の内なるものを求めるしか辿れる道はないことを主役の二人が語っていた。
ジャ監督は中国人に対して絶望しているのではなく、「絶望を問題にできない中国人」を問題にしたかったのではないか。
不自然な綱渡りのシーンは「でたらめな中国」「恐ろしい中国」「絶望を問題視できない中国」を連想させる。異様な社会の中で謎のバランスを保っているように見えるが、あとほんのわずかで真っ逆さま。
中国だけじゃない。わずかなバランスが崩れれば真っ逆さまなのは世界も日本も同じ。
映画を観ることは世界を知ることだ。
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