サルバドールの朝 : 映画評論・批評
2007年9月18日更新
2007年9月22日よりシャンテシネほかにてロードショー
ダニエル・ブリュールが複雑かつ魅力的な人物像をリアルに再現
近年になってフランスを舞台にした「ドリーマーズ」やイタリア映画「輝ける青春」など、“政治の季節”と呼ばれた1960年代末から70年代初めにかけての世界的な“若者の反乱”を主題にした良質の映画が注目を浴びていて、「サルバドールの朝」もまた同時期のスペインを舞台とする映画だ。主人公のサルバドールはスペインでは有名な実在の人物。それなりに裕福な家庭に育ちながら、祖国で長々と続いたフランコ独裁政権に反旗を翻す活動を展開、結局、警官を射殺した罪で死刑になった。
「グッバイ、レーニン」でブレイクしたダニエル・ブリュールが、若者特有の無鉄砲さでロビン・フッドめいた義賊を気どる一方、決して信念を曲げない情熱や誰からも(特に女性から?)愛されてしまうカリスマ性に恵まれる……といった“普通の若者”でありつつ、ある時代を象徴する存在となった複雑かつ魅力的な人物像をリアルに再現する。また、この時代を扱う青春映画の特徴といっていい、当時の世相を甦らせるポップソングの多用が本作でも楽しみの一つになる。快活なアクションやラブストーリーも織りまぜたアメリカン・ニューシネマ風の前半と獄中での死刑囚としての主人公の苦悩を描く後半部分の対照も鮮やかで、この一本で二つの映画を同時に見終えたような充実感を得られるに違いない。
(北小路隆志)