天然コケッコー : インタビュー
山下敦弘監督 ロングインタビュー
■ネタバレ注意! 夏帆の演技がどんどん上達し、最高のシーンが撮れた。
──ラストの学校の校舎で、カメラがクルッと回って時制が変わるシーンなど、歌舞伎の回り舞台のようで、素晴らしいシーンでした。
「あのシーンの前に偶然、溝口健二監督の『雨月物語』(53)を見たんですよ。そしたらあの映画のエンディングに雰囲気が似てしまってね(笑)。実は、あのシーンの狙いは相米慎二監督の『お引越し』(93)のラスト。ワンカットで田畑智子さん演じる少女の成長を描くシーンがあるでしょう。カメラがクルッと回ると、卒業式から入学式に時制が変わっているみたいな効果を狙ったんですよ」

──結局、夏帆ちゃんに目が釘づけになるんですね。彼女が光り輝いた瞬間って、どんなシーンの撮影の時ですか?
「撮影の後半になって、そよと大沢くんの話に絞り込まれていく中で、そよが彼の制服のボタンを付ける重要な場面があるんですね。実は最初撮った時、演出を失敗したんですよ。その前日が撮休だったから、僕の集中力もなくてね。とてもいい光だったんだけど、2人も休みボケみたいでうまくいかなかった。4~5テイク撮ったんだけどダメで、渡辺さんにセリフを付け加えてもらった。夏帆を呼んで、『大沢くんが東京に行ってしまうかも知れない悲しみを込めないといけない。それをワンシーンで見せたいんだ』と聞かせたんです。ちょっと照れくさいんだけど、偶然にスピッツのカバー曲で、つじあやのさんの『チェリー』の音源を持っていたので渡して、『明日まで聴いておいて』と言って、後日仕切り直したわけです。そしたら岡田くんにもシーンの重要性が伝わったみたいで、1発目から最高のシーンが撮れたんですよ(笑)。そんな緊張感につつまれて後半は一気に突っ走ったので、感動的な最後のキスシーンも1発OKでした」
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