「フランス的解決策」アズールとアスマール ts-39さんの映画レビュー(感想・評価)
フランス的解決策
「キリク」もそうだったが、美しくエキゾチックな映像に載せて、ミッシェル・オスロはきっちりと問題の解決策を示してくれる。今回は移民問題である。
実はフランスは、移民統合が最も順調に進んでいる先進国である。2005 年に移民暴動が起きたが、この暴動には白人も多数加わった。これは、若年失業問題に対する暴力的抗議という認識が白人の間でも正しく共有されたからである。アメリカの KKK やドイツのネオナチのような、少数派への暴力とは正反対である。しかも、アラブ人は差別されているとはいえ、在仏アラブ人女性の 15.8% がフランス人と結婚する。これをアメリカ黒人女性が白人と結婚する率の 2.3% と比べると、フランスの受け入れ能力は明らかだろう(データはエマニュエル・トッド「移民の運命」より)。法の下の平等が実現しても、必ずしも隔離は解消されない。真に平等の精神があるなら、自由に結婚するはずであるし、結婚するべきである。
この社会学的文脈を知る者にとって、アズールとアスマールが友情を回復し、そして二人がパートナーを入れ替えて(しかも女性主導で!)、ジェナヌが「このほうがもっといい」と喜ぶ結末は、まさに個人間の友情と愛が軽々と集団間の偏見を乗り越えていくフランス的受け入れ能力の賞賛であり、満面の笑みでもって祝福するほかはない。クラプーもヤドアもシャムスサバ姫も、アズールを白人としてではなく一人の人間として受け止めた。むしろ偏見を持っていたのはアズールだったのだ。しかしアズールが目を閉じ心を閉じても、我々観客はアズールが間違っていることを知っている。描かれるアラブ世界もそこに住む人々も美しいからだ。違うから醜いのではなく、また違うから美しいのでもなく、違いを超えて美は普遍的に存在している。心を開けばそれに気付くはずなのだ。
一方、アメリカを見ると、ディズニーの「プリンセスと魔法のキス」ではヒロインが初めてアフリカ系アメリカ人になったが、その相手はやはりアフリカ系と思われる青年であった。いまだ「ジャングル・フィーバー」はアニメですらハッピーエンドの物語になれないのだ。