ルネッサンス : 映画評論・批評
2007年7月17日更新
2007年7月14日よりシネセゾン渋谷にてロードショー
「ブレードランナー」の世界観をアップデート
近未来都市、謎の女を追う男、巨大企業の陰謀と、まんま近未来SFの名作「ブレードランナー」の設定で、新たな世界像の創造に挑むという、大胆不敵な企み。動画の巨大ビルボードは表示内容が通行人に反応して変化するという進化を遂げ、街頭広告は立体ホログラム化。歌舞伎町〜香港的雑踏の代わりに、イスラム系意匠が導入された。舞台はロサンゼルスではなくパリ。この都市は「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の東京や「鉄コン筋クリート」の下北沢のように、実在の街を上書きして構築され、エッフェル塔などの実在する建造物が思わぬ姿で出現する。
こうして細部を踏襲しアップデートすることで、世界の色と質感の差違を際だたせることに成功。「ブレードランナー」は蛍光色のパステルカラーだが、こちらは白と黒のみのマットなモノクローム。あちらは雨に反射するネオンに代表される反射光の世界だが、こちらは透過光の世界。この世界の光は「有」「無」どちらかの状態しかなく、光は随所で透明な物体を透過する。その透過光の静謐さ、滑らかさ。それがモノクロの線画で表現され得たことの不思議。酸性雨の代わりに、雪が音もなく降り積もる、たしかにあの酸性雨のロサンゼルスとはまた別の近未来都市がここに出現している。
(平沢薫)