「アリだけど新味ゼロ。」ALWAYS 続・三丁目の夕日 trekkerさんの映画レビュー(感想・評価)
アリだけど新味ゼロ。
三連休の日曜日のシネコンで鑑賞。劇場は老若男女がひしめき、始めから年配の方たちの笑い声が絶えず、それがやがて泣き声に変わり…。
皆んながあるひとときを幸せな気分に浸ることが出来て、古き良き昭和を懐かしむことが出来たという意味では、充分、アリな作品だと思う。
前作と変わったことをしようとせず、ベタな脚本でブレない作品を作ったというのも評価出来るだろう。
だが、あえて言わせてもらえば、今作で私は笑いこそすれ、泣くことは出来なかった。
その理由はいくつかある。
一つは小エピソードの積み重ねが無いということ。
都電でお母さんに会いに行くエピソード。「困ったときに開けてごらん」という薬師丸ママが預けた1000円札のエピソード。都電の通る街育ちの私にとって、同じ経験のあるドンピシャのエピソードだった。小学校2年の秋、飛鳥山公園に遊びに行った帰り、都電の駅で気付くと外は真っ暗。帰るお金もない。その時の心細さといったら!私の場合は、母が迷子札の中にいつも1000円札を入れておいてくれた。
だが、続編では、このような珠玉のエピソードの積み重ねが見られない。
二つめは同じ話で2度泣けないということ。
前作で一番泣けたのは淳之介が車を降りて吉岡君に駆け寄るエピソード。だが、続編でも全く同じエピソードを繰り返す。小雪が一緒に暮らすか暮らさないかも同じ。吉岡君がコミカルな演技をしてくれるのは良かったが、脚本がベタすぎて始めから最後まですべて思ったとおりにことが進み、何の感動も得られなかった。
三つめはラストが解決していないこと、東京タワーが何の象徴にもなっていないこと。
小雪は借金があるから踊り子として働いている。大阪のだんながその借金を返してくれたなら、簡単に結婚を破棄できるはずがない。ラストも東京タワーに登って終わるな、と確信していたら全くその通り。だが、脚本上に何の関連付けもない。『続々・三丁目』で大阪のだんなさんが小雪を追って出てきたり、またもや淳之介の父親が同じエピソードで出てきたり…なんて話は間違ってもやらないでもらいたい。
四つめは登場人物たちが、『ピーターパン』などおとぎの世界の話のように成長がないことだ。六ちゃんや一平君など役者さんは成長しているのに、三丁目の住人には何の変化も無い。やはり、彼らが成長していくエピソードをみせるべきではないかな?
監督さんが特撮出身の方なので、昭和の風景は素晴らしいが、私は今作を観ると映画を見ているというより、歴史博物館でジオラマを観て郷愁に浸っているような気分になる。
原作はエピソードがたくさんあるんだから、いくらでもまだ描くことがあると思う。次回作では、ぜひ脚本を強化して、ドラマで泣かせて欲しいものだ。