めがね : 映画評論・批評
2007年9月18日更新
2007年9月22日よりテアトルタイムズスクエア、銀座テアトルシネマ、シネセゾン渋谷ほかにてロードショー
余白だらけの時間と空間に、捨てがたい不思議な魅力がある
これって「かもめ食堂 Part2」?という視線で見られても致し方ない。前作の好評を受け、同じ編成の主要スタッフ&キャストに、都会人のスローライフ願望に応えようとする意図がなかったと言えば嘘になるだろう。現実から逃れてきた訳ありの主人公は、ケータイの繋がらない南の島で、うまい食べ物と、希薄な人間関係の中、ただ時を過ごす。前作以上に劇的要素は消え失せ、時も感情も凪のように止まっている瞬間すらある。
干渉されぬ場所こそユートピア――そんな消極的な理想を抱くキャラは、まさに今どきの肖像だが、それをそのままデッサンした演出は物足りない。物語ることをやめるなら、せめて人物にふくよかな奥行きをもたせるべきだった。しかしこの余白だらけの時間と空間には、捨てがたい不思議な魅力がある。
ふと、「豊かな自然=癒し」という図式に疑念を抱き始めた。ロケ地は与論島。奄美諸島やさらに南の沖縄の時空をさかのぼり、本土の都合で征服され放棄された歴史に思いを馳せてしまう。繰り返す白い波は、悲惨な過去を洗い流しているけれど、本作が寡黙すぎるゆえ、自ずと想いをめぐらしてしまうのだ。
この“真っ白なノート”を埋めるのは貴方次第。僕は、島に秘められた情念や空気に気づかされた。土地に宿る悲しみが都会人の虚ろな心に憑依しているように思えた。傷つき疲れた者が南を目指すのは、土地に抱かれ、悲しみを共有するためなのかもしれない。
(清水節)