「本谷有希子の妖しい闇」腑抜けども、悲しみの愛を見せろ カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
本谷有希子の妖しい闇
15年以上前、2007年の作品。本谷有希子の戯曲が原作。吉田大八監督の長編デビュー作品。携帯の電波が届かないような地方の集落に暮らす再婚相手の子供同士の兄妹と兄嫁の四人。兄の宍道(しんじ)(永瀬正敏:当時42)は山で炭焼きをして生計を立てている。その嫁は東京のコインロッカー生まれで児童養護施設育ち。30歳を過ぎて田舎に嫁いできた処女(永作博美:当時37)。最年少の次女は中学生の清深(きよみ)14歳(佐津川愛美:当時19)。そこへ、4年前に女優になると言って東京に行った長女の澄伽(佐藤江梨子:当時25)が交通事故で死んだ両親の葬儀で帰ってくるとこから始まる話。
ロケ地は本谷有希子の出身地の石川県。わたしが本谷有希子を初めて知ったのはテレビのバラエティー番組(セブンルール)。比較的最近のこと。5人ほどのコメンテーターの中でも群を抜いて教養がありそうで落ち着いた感じのスレンダー美女。奥ぶたえの暗めの円らな瞳にボーイッシュなショートヘアー。惹かれたのは一筋縄ではいかない妖しさを感じたから。この映画をみて、半分くらいはその謎が解けたような気がした。姉妹のキャラクターは石川にいた頃の若い彼女なのかも知れない。永瀬正敏演ずるキャラクター設定は古い家への苛立ちに溢れており、夫に従順なだけの自己肯定感の低い女性への蔑視も少々感じられた。
今はお色気プンプンの佐津川愛美が当時演じた愛らしいメガネ中学女子の闇の禍々しさは呪みちるの漫画の画風のそれと合わさり、今はとなっては垂涎モノ。このキャスティングはくせになる。戯曲が元のせいか、「お芝居」って感じがまた良い。若い頃の佐藤江梨子と佐津川愛美のバトルに立ち会えた喜びと本谷有希子の闇をほんの一瞬でも覗けた満足感にわたしは今浸っている。