図鑑に載ってない虫 : インタビュー
三木聡監督インタビュー(2)
※「三木聡監督インタビュー」から続く
──台本には、小ネタギャグをだいぶ書き込んでありますね。
「アドリブだと、どうしてもセリフのキレが悪くなることがあるんで、現場ではセリフのタイミングを確認する作業がほとんどになります。それは『イン・ザ・プール』でも『時効警察』シリーズでも『図鑑に載ってない虫』でも共通したことかな。そこから膨らみを持たせるのは、役者のインスピレーションや演技。それこそがアドリブかもしれないですがね。よく聞かれるんですが、基本的にはアドリブを入れず脚本通りに撮影を進めますね」
──塩辛のシーンの撮影には時間をかけたんですね。
「あれは奇跡的に一発OKでした。菊地(凛子)くんが1回で決めてくれてね。オダギリ(ジョー)くんもそうなんですけど、ああいう簡単なようで技術の要る動きに、役者さんたちの運動神経というか、彼らの才能を感じます。美人編集長役の水野美紀くんもそう。ずっと少林寺拳法をやってきたらしく、動きにキレがあるんだなぁ」
──伊勢谷友介さんの衣装が面白いですね。
「伊勢谷くんは2枚目だけど、困った顔が面白いじゃないですか! 脚本を読んでもらったときに、説明のつかないおかしさを感覚的に分かってくれたので彼にしたんです。あの彼の衣装は、僕がシティボーイズと関わっていたころからの知り合いのスタイリスト勝俣淳子さんに担当してもらいました。ベテランで非常に引き出しも多く、信頼出来るセンスの持ち主だったので、イメージとして持っていた70~80年代のTVムービーのような、ちょっとレトロな感じを出してもらいました」
──タイトルデザインも70~80年代の日活映画みたいです。
「日活の配給になったのも不思議な縁なんですが、昔の鈴木清順作品のようなアバンギャルドなテイストをとデザイナーに頼みました」
──菊地凛子さんの赤い衣装も印象的ですが、三木監督は色味にこだわるタイプなんですか?
「こだわるというか、最初にテーマカラーはいつも決めていますね。『亀は意外と速く泳ぐ』は緑、『ダメジン』だと黄色。今回は今まで使っていなかった赤をメインカラーにしようと思って使いました。まぁ、グダグダな映画なんで(笑)。そういうイメージカラーを付けると、ひとつの指標になるんですよね。そこから対照的な色の使い方も考えます。雰囲気のカタルシスも相当意識していますね」
──三木監督は子供のころにどんなお笑い映画を見て育ったんですか?
「TVだと『巨泉・前武のゲバゲバ90分!!』『モンティ・パイソン』を見ました。『博士の異常な愛情』とかもTVで見た記憶はあるんですが、水爆にまたがったおじさんが落ちているシーンくらいしか憶えていなくて。あとは『ゴジラ』など怪獣映画の影響も大きいですね。ゴジラが“シェー”した時点でガッカリしましたけど(笑)。実は映画少年というほど映画は見ていないんですが、18、19歳のころにレンタルビデオが一気に増えたんで、そこから得た情報のほうが大きいです。鈴木清順やジム・ジャームッシュの作品には衝撃を受けましたね」
──今日の気分で、ベスト3を挙げるとすれば?
「鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』、デビッド・リンチだと『マルホランド・ドライブ』、キューブリックだと『博士の異常な愛情』ですかね」