劇場公開日 2007年6月23日

「竹内結子さんのご冥福をお祈りいたします」サイドカーに犬 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0竹内結子さんのご冥福をお祈りいたします

2020年9月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 20年前のヨーコさんと過ごしたひと夏を回想する薫(ミムラ)。なんの変哲もない展開の映画かと思いきや、普通でない家庭環境を見事に普通に描いているところが凄い。母親が家出をしてしまい、その間に夕飯の世話をするのが父親(古田新太)の愛人であるヨーコ(竹内結子)。父親は怪しげな中古車販売業を始めてしまうし、家の中にはパックマンのゲーム機を持ち込んだり・・・

 時代背景も1980年代であり、流行でもある昭和30年代を描いた映画たちとは一味違った雰囲気を作り上げている。車やスーパーのお菓子コーナーなどはよく集めたな~と感心させられるけど、年代はバラバラだったり、80年代でも珍しい駄菓子屋が存在感をアピールしていたりします。違和感はほどほどに感じながらも、冷蔵庫の位置はおかしいだろ!と勝手につっこんでみたりするのも楽しいかもしれません。コーラを飲むと歯が溶けるというネタもいいけど、その昔はチクロという発がん性物質のネタもいいかも・・・古っ。

 物語としても大きな展開があるわけでもなく、少女時代をノスタルジックに描いただけなのですが、松本花奈ちゃんが演ずる小4の薫のとても繊細な心理がスクリーンに広がるんです。ヨーコさんがガサツで図々しいと第一印象を植え付けられたのに、彼女に対して徐々に傾倒していく様子。「新しい母親になってほしい」と言いたいのだろうけど、大人の世界とは距離をおいた物の見方をしているかのようでした。

 伊豆への気ままな旅行がクライマックスとなっていましたけど、脇役として登場する樹木希林がツボでした。100万円を拾った住所不定の男の奇妙な話を聞いたばかりの薫が、愛人が相手の男の子供を誘拐という話をも鵜呑みにするシーンだとか、「お母さん」の言葉に敏感であるヨーコさんを気遣うところも微妙にリアルでした。

 「嫌いなものを好きになるより、好きなものを嫌いになるほうが難しい」などという印象的な台詞もさることながら、「飼われているのがいいか、自分が飼うほうがいいか」などと男女の仲とも大人の縦社会ともとれる意味深な言葉も心に残ります。飼い犬として扱われることへの反発もなく、それでも幸せなひと時を感じられる子供時代。そして、ヨーコさんの面影と決別することによって大人しく周りに流されてきた自分も硬い皮から脱皮することができるんでしょうね。

【2007年7月映画館にて】

kossy