劇場公開日 2007年6月16日

「田村正和の終わりの美学なんだな」ラストラブ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5田村正和の終わりの美学なんだな

2008年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

田村正和がワンカットごとに、隙なくダンディで素敵でした。
そして映像もシェイプされ、田村正和をかっこよく映し出しています。
ワンカットごとに見直す彼のこだわり、妥協のなさがひしひしと伝わってる作品でしたね。

ニューヨークの老舗のライブハウス。
その一夜は、サックスプレイヤーの男にとって、特別な夜となった。
妻が誕生日の祝いにステージの彼のもとへ、
真紅の薔薇の花束を届けようとしたとき、
男の目の前で儚くもその花束は妻の命とともに、
散っていった。
その時、男の人生の時間は止まってしまった。
もはやその一瞬の思い出を抱いてしか生きられなくなった男は、
すべてを捨てて、母国へ帰って行った。

瞬く間に5年が過ぎた。
縁あって、昔の店で男はサックスを吹いた。
およそこの世で生きていくことは、儚い。
別れる苦しみ。
病む苦しみ。
死す苦しみ。
男の吹くサックスはどこまでも哀愁を漂わせていた。
けれども、あの真紅の薔薇が頭を過ったとき、
居た堪れなくなって、
逃げるように店を飛び出すのであった。

やがて男自身も病がみつかり、余命3ヶ月といわれる。
そんな男にも孤独を癒す、女が現れる。
とても若い女だ。
女の若さに限りない未来を男は感じ取り、
逆に過去に生きる自分を、蔑むのであった。
もう誰も愛することなどできないと。

しかし最後の最後に、男は女の優しさに触れ、
止めていた心の中の時計の針を進めた。
ラストラブ。
人生の最後の最後に、男は、
永遠に失うことのない未来を掴むのであった。
その女とともに。

・・・ラストシーンでひとりベンチに腰掛け微動にしない田村正和を、
俯瞰しながら退いていくカメワークに感動しました。
ああこれが田村正和の終わりの美学なんだなと。
彼は決して、病室では逝かないのでしょう。
死に様を見せようとしないのでしょう。

きっとあなたさまも、この映画で過去の悲しみを、
乗り越えていくことができるでしょう。
無常であればこそ、
新しい出会いがあります。
新しい人生が始まります。

流山の小地蔵