「一難去ってまた一難、そしてまた、また…。」ブラックブック とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
一難去ってまた一難、そしてまた、また…。
「苦しみに終わりはないの?」
という言葉の通りの展開。
世の中の情勢に翻弄された女性がたどった半生。
よくぞ、生き延びたと言いたいが…。
誰が信じられて、誰を信じてはいけないか。
ナチスだから、ナチスの協力者だから、レジスタンスだからとかでは判別できない。
一番損得に目ざといあの人が…。
親身になってくれたあの人が…。
ハンスの言葉、「殺されると脅されれば…」ある一面の真実なんだが、そうくるか。
変わり身の早さは、ある意味、自分を助ける?ある人にはほっとし、ある人には唾を吐きたくなる。その違い。
人としての誠実さは報われる?
大切な人を奪われ、一人残されたやるせなさ…。
”国籍””人種””組織””信条”では図れないそれぞれの想い。
交差する心。
それでも、ほっとできる間柄も。
でも、だからこそ深まる悲嘆、怒り。
命を懸けたサバイバル。
”正義”その言葉を借りた攻撃性の発露。
溜まった鬱憤の捌け口は、常に手出しの出ぬ者へ。
そして、安易に祭り上げる英雄。
簡単に落とされる名声。
そして、地獄は続く…。
ラストの映像に絶句する。
だが、これが史実。
何故?歴史は繰り返す。
それでも生きていく。
その姿に涙する。
事実をベースにした物語。
それを思い返すと、なんと皮肉なメッセージを込めた映画なのかと唸ってしまう。
事実は小説より奇なり。
簡単なハッピーエンドでは終わらない。
そんな世界情勢、人の心の有様を炙り出した作品。
☆ ☆ ☆
この映画の監督は、第二次世界大戦終結時6才だったとか。
この人間模様が、幼い子の眼に映ったものか?
日本の、戦争時子どもだった人々が、終戦を期にすべてがひっくり返ったとおっしゃるが、こんな体験だったのか?
大人になった私たちが、この終戦後の混乱を見れば、整理もつこうが、
まだ大人の示す世界が世界の総てと信じる世代にとっては…。
映画は、目を覆いたくなるような描写もありながら、
(特に、食事しながらの鑑賞はお勧めしない)
乾いた描写でサクサク進む。
一つ一つは胸がえぐられるほどの描写なのだが、
次々に展開していくので、
ヒロイン同様、涙が出てこない。
圧倒的な現実に出会うと感情がマヒするが、そんな感覚?
そんなところが☆マイナス1。
と言って、情緒たっぷりに描かれたら、トラウマ級の映画になり、二度見できなくなりそうだが。
そんな演出の中でも、ヒロインには充分に感情移入できる。演技・覚悟に乾杯。