「地獄めぐりとチョコレート」ブラックブック ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
地獄めぐりとチョコレート
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カテゴライズの難しい映画ですね。どこに置いても微妙に座りが悪いというか。。
一見すると戦下もの、スパイ潜入ものですが、ちょっとハミ出る。
あえて言うなら戦争を背景にした復讐ものでしょうか。いちばん近いのは「イングロリアス・バスターズ」かも。
主人公のラヘルは裕福なユダヤ人家庭の生まれとあって物怖じせず聡明だが、人を疑うことを知らない。歌手だったのにユダヤ人というだけで潜伏生活を強いられ、そのために残酷な運命を課せられる。
タイトルの「ブラックブック」は、一応劇中に登場しますが、なんとなく日本語の「黒歴史」的なニュアンスで作品全体を象徴しているような気がします。
ページをめくってもめくっても、地獄のような局面の先にはまた新たな地獄が見えてくる。
オープニングで現在の彼女が登場するので、生きのびることだけはわかりますが、その間どんなものを見てきたのか、それが本編として描かれます。
美人で才媛なので当然モテるわけですが、それすらも戦時下のナチスとの闘いにおいては貴重な資源として活用することを求められる。
前半で棺桶の死体として脱出する場面はちょっと現実感がない気もしますが、おそらくこの作品にとって重要なメタファーなので生かされたのでしょう。
そう考えると、回想の終盤で彼女の隣にいる人物、そして不当な最後を迎えるあの人も、彼女を動かすのと同じ動機を抱えている。
どうあっても、水に沈んだ死者を忘れることはできない。
映画偏差値としてはハイレベルなんだけど、妙に軽いというか重厚感がなく、湿度が低いところが独特だなと思います。
おそらくハリウッドで撮ってもアカデミー賞はとれないんじゃ、という。
劇中で本人もなぜか泣けないんだと言ってましたが。泣いても終わらない、こちら側にいる以上、まだやることがあるんだという内なる声のせいでしょうか。どんなに無念でも死んだら何もできないから、生きてる側の人間が報いなきゃいけない。
とはいうものの、生きてる以上心があるわけで、一切に蓋をして目的遂行マシーンになれるわけじゃない。
ラヘルはもともと感受性豊かな人だし、ナチュラルに人を好きになったりもするし、気丈とはいえ傷めつけられたら苦しむ。つまり抜け道を完全に塞がれた状態で地獄にいるわけです。
すばらしい集中力で演じきった主演の女優さんはじめ、キャストも演出もよかったと思います。
観終わってチョコレートを食べたくなりました。
そういえば、ラヘルが公証人のオフィスを初めて訪ねる場面でウサギのにんじんをつまみ食いするシーン、あれってどういう寓意なんでしょうか…?