「子ども向けなのに、こんな安易な話でいいの?」ハッピー フィート とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
子ども向けなのに、こんな安易な話でいいの?
子ども向けだからこそ、もっとちゃんとストーリーを組み立ててほしかった。
環境問題のテーマが入っていて素晴らしいと言う人は、ちゃんと環境問題・動物保護に関して、実際に起こっていることを理解しているの?ネットとかの間違った情報を信じていない?
CGは圧巻。
宣伝でも強調されているが、ふわふわの毛並みまでも再現。絵なのについ手を伸ばして触りたくなる。そして動きの細やかさ。手を抜いていない。この辺は量産している日本のアニメに反省してほしい所。モーションキャプチャーか。納得。それでいてペンギンらしいところ少しは残している。
この映像だけ見てもアカデミー賞は納得してしまう。
加えて、楽曲。
メジャーな曲を芸達者な方々が歌いきる(良く考えたら、この作品の為に作られた曲じゃないのね)。映像は上記のキュートなペンギンたちがありえないパフォーマンスを繰り広げながら魅せてくれる。「ありえないー」と笑いながらも、それはそれファンタジーの世界。楽しめる。
物語も、前半は、種族の価値観に縛られて居場所を失くしてしまった子どもがメイン。
教室のルールにのれなくて悪戦苦闘している子ども達を思い出してしまった。
「一人でいいもん」と自分の世界を満喫しようとすれば、ペンギンを食料と狙う鳥に襲われる様が描かれて、一人では危険にさらされる現実も描く(この場面もスピード感とスリルがあって秀逸)。
けれど、彼を受け入れてくれる別の価値観があって、同じ種族にも彼を受け入れる素地もあって、やがてハッピーエンド、めでたしめでたし、で終わるのかと思いきや…。
後半、別のテーマが浮上してくるあたりから、話がご都合主義、最近のアニメではあり得ないほど杜撰なストーリーとなる。
ゴミ問題とか人間との絡みがちらちらと入ってくるけど、エピソードが練られていなくて(アクションとしての演出は練られているけど)、イライラしてくる。
特に、マンブルが動物園に捕まってからラストのくだりが急展開過ぎて、何これ。もっと丁寧に扱ってほしかった。
「クジラをまるごとごちそうにしてしまう」貪欲で危険な種族みたいに言う場面があるけど、ペンギンだって魚丸呑みじゃん。
命を奪ったのだから、それを余すことなく使いきり、命の連鎖に還元していく。ネイティブアメリカン他各地の民族が命に敬意を表して大切にしてきた伝統。(『ダンス・ウィズ・ウルブス』にもバッファローを余すことなく使いきる場面が出てくる)
まあ、海に、大地に捨てれば、小さな動物の餌になって命の還元は為されるけど、その土地・海が消化しきれない餌がまき散らされれば、その土地・海が汚染されて死滅する。
必要分だけとる、それが大事。
象牙だけの為に象の命を奪うような人々とは違うのに、「命を大切にする」という視点がずれている。
魚の大量乱獲は確かに問題。「命を破棄してお金もうけしか考えていない」ことをしている種族が行っていることなんだけどなあ。
ペンギンの視点からすれば、「限りある資源を独り占めしないで」ってことなんだけど、短絡すぎてとってつけ。乱獲→保護だけでは解決にならない。
暖房の効いた部屋に暮らしながら時折の外出の為に毛皮のコートを着て、動物愛護を訴えている。そんな安易さ。(ここでいうなら鮪や寿司に舌鼓打ちながら、乱獲を嘆くようなもの。それって…)
安易な話の作りに、それまでの感動が興ざめ。
才ある出演者も含めて良識疑ってしまう。なんでこんな作品に出ているの?なんでこの作品に賞を送れるの?本当に環境問題・動物の生態系連鎖わかっているの?
子ども向けのアニメなんだからいいじゃん適当でというご意見もあろうが、子ども向けだからこそ丁寧に作られた本物を見せたいと思う。この映画をきっかけに「本当はね…」と話しあえ、調べられる環境にあれば別だけど。
映像部門でのアカデミー賞は確実なんだけど、物語はラジー賞。たくさんの人が注目しやすい映画であるだけに、残念です。