絶対の愛 : インタビュー
キム・ギドク監督インタビュー
──ギドク監督は絵の勉強をされていました。絵コンテは詳細に描くほうですか?
「絵コンテは詳しく描いてはならないと思うんです。(ノートに描き出して)後ろ向きなら髪の毛を描く、顔が見えるなら、鼻をこんなふうに描くだけ。移動する場合も矢印を描くだけ。これ、殴るシーン。稲妻が入ります(笑)。跳び蹴りのシーンはこんな感じかな」
──今度ノートを見せてくださいね。
「ハングルをつづった英語の筆記体みたいな自分にしか読めない文字になっているので、きっとわかりませんよ(笑)」
──主演のソン・ヒョナさん、そして整形後の顔になるもうひとりの主演パク・チヨンさんは整形が必要ないぐらいキレイですね。
「本人が美しいんですよ(笑)。他の映画で出ていない魅力や美しさがこれに出ているのなら、うれしいことですね。2人とも少し似ているので配役したんだけど、とてもキレイで、いい女優さん。ぼくの映画に出てくれるだけでありがたい。韓国内にはぼくの映画に出たいという方と絶対に出たくないという方がいるんですが(笑)、ソン・ヒョナさんはノーギャラでも出たいと言ってくれてます」
──非常に多作ですが、1年間をこの季節に映画を撮ろうとか、計画的にスケジューリングしているものですか?
「1月に新作『息(Breath)』の撮影が終わったところで、今ポストプロダクションの仕上げの真っ最中です。それは、ある死刑囚と人妻のラブストーリーになっています。実は。ぼくはあまり計画的でなく、気持ちが盛り上がったところで映画を撮り始めるわけなんです。ぼくの映画に出たいという俳優もいっぱいいるんですが、いつも突発的に始めるので、なかなかスケジュールが合いません」
──日本人俳優の杉野希妃をウェイトレス役でキャスティングしてますね。
「彼女とは偶然釜山映画祭で会って、韓国人マネージャーがいうには、韓国で芸能活動も続けたいとのことでした。その映画祭でキム・ソンホ監督の『宝島』という短編映画に出ているのを見ました。ソンホ監督からの推薦もあったんです。彼女は日本でも歌手活動を始めるとのことなので応援してください」
──いつもロアルド・ダールの短編小説ような人間の興味深い心理を描いていて、ギドク監督の作品全体が漢字1文字が表題になった“短編小説集”になっていると思うんです。そろそろあなたによる「グエムル」のような大きな予算の“長編小説”も見たいものです。
「(東京の)DVDショップへ行ったら、韓国のどの映画作家よりも多く、ぼくの作品が8本も並んでいました。ああこんなに撮ったんだと思う反面、これ以上ストーリーを思いつくだろうか、とふと考えてしまいました。『グエムル 漢江の怪物』を礼賛するマスコミを批判したことに端を発して、ぼくは引退宣言し、やがて撤回しました。が、先ほど言ったように、次回作はすでに撮り終えています。韓国内では風当たりも強く、嘘つき呼ばわりするマスコミの者もいますが、日本ではこうして特集上映されることにうれしさも感じています。大きなバジェットで撮れたらいいんですが、どこかで自由さも失うリスクをともなうでしょう。ただただ映画を撮っていきたい。映画しかありませんからね」