劇場公開日 2007年3月10日

ラストキング・オブ・スコットランド : 特集

2007年2月26日更新

ウガンダの独裁者として君臨した大統領イディ・アミンのカリスマ性と狂気を、スコットランド人の若き医師の視点から描いたサスペンス・スリラー「ラストキング・オブ・スコットランド」。主演フォレスト・ウィテカーは、権力により凶暴化するアミンを圧倒的な迫力で演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞したほか数々の映画賞で話題をさらった。いよいよ3月10日より日本公開される本作の見どころに迫る。(文:高橋諭治

フォレスト・ウィテカーが狂気に堕ちる孤独な独裁者を体現

■歴史の真実にフィクションの手法で迫った、濃密かつ超一級のサスペンス・スリラー

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「ラストキング・オブ・スコットランド」の舞台となるウガンダは、ケニアやルワンダなどに隣接するアフリカの内陸に位置し、かつてはイギリスの植民地だった国だ。イギリスからの独立後間もなく、1971年の軍事クーデターで大統領に就任したのがイディ・アミンだった。しかし国民に熱狂的な支持で迎えられたアミンは、在任中に大量虐殺などの蛮行を犯し、悪名高き独裁者として歴史にその名を刻むことになる。

この映画はアミンという圧倒的なカリスマ性を誇った人物を、もう1人の主人公であるニコラスという若きスコットランド人医師の視点で描いていく。ニコラスは実際にアミンと交流があった複数の西洋人をモデルに創り上げられた架空のキャラクター。いわばフィクションの手法を採り入れて、歴史の驚くべき真実に迫ったユニークな作品だ。

未知なる冒険を求めて、スコットランドからエキゾチックなアフリカの大地を踏みしめたニコラス。偶然にも演説帰りにケガを負ったアミンの手当をした彼は、またたく間に気に入られて大統領専属の主治医となり、親しい相談役として政権運営にまで関わるようになる。ウガンダを発展させるため、エネルギッシュに活動する庶民派の大統領。それがニコラスの目に映るアミンの印象だった。しかし、やがてアミンのおぞましいダークサイドが露わになり、命の危険を感じたニコラスは、すでに自分が後戻りできないところまで深入りしてしまったことに気づく。私たち観客は、まさにニコラスの立場となって独裁者の表と裏の顔を目撃する。そして夢のような日々から地獄へと突き落とされるニコラスの運命を通して、凄まじい起伏のサスペンスを体験することになるのだ。

大統領イディ・アミン(左)とスコットランド人医師ニコラス(右)
大統領イディ・アミン(左)とスコットランド人医師ニコラス(右)

■映画賞を総なめにした主演フォレスト・ウィテカーの鬼気迫る存在感

観る者のド肝を抜く最大のサプライズは、アミンに扮したフォレスト・ウィテカーの圧倒的な存在感だ。クリント・イーストウッド監督の「バード」やジム・ジャームッシュ監督の「ゴーストドッグ」などで主演を務める一方、ハリウッドの名バイプレーヤーとしても活躍してきた実力派の黒人俳優である。

狂気に満ちたアミンを大熱演
狂気に満ちたアミンを大熱演

堂々たる体格と力強いリーダーシップを備え、時にはユーモアをふりまいて周囲の人々をなごませるチャーミングな人物。ウィテカーはそんなアミンが権力の魔力によって腐敗し、凶暴化していく過程を生々しい迫力で演じきっている。なかでも自分が暗殺されるのではないかというオブセッションに取り憑かれたアミンが、ニコラスの目の前で錯乱するシーンには戦慄を覚えずにいられない。

「最初はアミンについて、非常にダークなイメージしか持てなかった」と振り返るウィテカーは、ジャイルズ・フォーデンの原作小説を読み、歴史のリサーチを重ねるうちにアミンの多様な側面に気づいたという。「俳優としての僕のチャレンジはステレオタイプ化されたイメージではなく、本当にリアルなキャラクターを演じることだった」。そう語るウィテカーは、鬼気迫るボディランゲージに繊細な表情や仕種を織り交ぜ、見事にこの難役を体現。ゴールデングローブ賞の主演男優賞を始め、全米のさまざまな映画賞を総なめにする快挙を達成した。

そしてウィテカーの入魂の熱演を得て、この濃密かつ刺激的なサスペンス・ドラマを完成させたのは、「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」「運命を分けたザイル」という傑作ドキュメンタリーで名を馳せたケビン・マクドナルド監督。ウガンダでの現地ロケを敢行するなど、持ち前のリアリティへのこだわりを遺憾なく発揮した彼は、クライマックスには実際に起こったエンテベ空港でのハイジャック事件の模様を映像化。私たちの想像を遙かに超えた“衝撃”がそこに待っている。

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