魂萌え! : 映画評論・批評
2007年1月23日更新
2007年1月27日よりシネカノン有楽町にてロードショー
派手ではないが、ラディカルな試みがなされた傑作
それなりに幸福な結婚生活を続け、夫が定年を迎え退職、さらに急死……と生活の激変を体験する主婦が主人公。その死後にどうやら夫に愛人がいたらしいことが発覚し、それまで積み上げた人生が根底から揺らぐ。深刻に落ち込み、フライングぎみの失敗も繰り返しながら、それでもこれからも長く続くであろう人生に前向きに挑もうとするヒロインの姿が感動を誘う。“男の映画”の監督という印象もある阪本順治だけど、彼はすでに“女性映画”の金字塔「顔」を撮っており、本作もまた“難民”と化した家族を肯定的に描くという、彼ならではの主題を継承する傑作だ。
若い世代による特異な風俗を取り上げればそれで斬新な映画になる……といった「神話」がいまだに信じられる傾向にあるが、バカげた誤解である。中年男性の悲哀を描く映画はそれでも時々見受けられるが、中年から老年に向かう“恋する女性”を正面から描く映画となるとさらに貴重だろう。そんな意味でも、見かけはそれほどハデじゃないこの映画、最近の日本映画にあって抜きん出てラディカルな試みであり、全てが語りつくされたかのような錯覚に陥ることもある映画界にあって、まだまだ未開拓に近い鉱脈があると僕らに立証してみせる。ちょうど、世界の揺らぎに直面した主婦が、なぜかいきなり白い軍手をはめた女性映写技師に憧れるように、僕らもまっ白な気持ちになって映画観客に戻ることも悪くない……そんな思いを抱かせてくれる。
(北小路隆志)