「三人の演技が良かった」フリーダムランド Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
三人の演技が良かった
総合:75点
ストーリー: 75
キャスト: 80
演出: 70
ビジュアル: 70
音楽: 65
ジュリアン・ムーア演じるブレンダは、最初から挙動不審だった。車を強奪されたというのに経緯もわからぬまま手には怪我をして血まみれ、子供が車ごと盗まれたというのに、本気で子供を探そうとする気配がない。曖昧な供述が繰り返されて、明らかに嘘をついて何かを誤魔化そうとしているのがわかる。
幼いころから何をさせても失敗ばかりの人生を歩み、家族からすら見放されて孤独でひっそりと生活していたブレンダという女性。長い苦悩の末にようやく子供という生甲斐を見つけたのに、その後に心惹かれる男に出会って心乱れても、それにどうすればよいかも自分でよくわかっていない。そして何もかもを失ってしまう。髪もぼさぼさで化粧もしない、やること言うことは荒削りで、感情的になって暴れたりもして、洗練されているとは何もかも程遠い。そんな女性をうまく演じられていた。
主人公のロレンソ刑事を演じるサミュエル・L・ジャクソンも良い。普通の社会と貧困の黒人社会、刑事としての自分と担当地区に長年いる自分、犯罪を取り締まる自分と息子を含む犯罪者の立場を理解する自分。数々の板ばさみ状態にやるせなさを感じている、やや損な役回りがほろ苦い。
もう一つ面白かったのが、誘拐された子供の捜索をする団体のカレンを演じたイーディ・ファルコ。ブレンダの支援をするといいながら、最初から見つかることが無いのがわかっている捜索をする。息子が誘拐されて人生が狂った自分の経験を持ち出しながら、知らず知らずのうちにブレンダの心に踏み込んでいき、いつの間にか自分の問題をブレンダの問題に摩り替えていく緊迫の問いかけ。この交渉というか真実の追求というか人を救おうという意思というか、それが素晴らしい。心の闇を覗き真実を追究する、静かだが強い人柄をこれまた見事に演じていた。
程度の差こそあれ、みんな幸せとは言えない人生を送っている。それぞれの理由によって、普通の幸せが手に入らなかった寂しさが描かれて余韻に残った映画だった。ただの謎解きや犯罪の解決をするのにとどまるのではなく、犯罪の裏にある、そこに行き着くまでの個人の事情の描き方が寂しくてとてもよかった。