ダーウィンの悪夢 : 映画評論・批評
2006年12月19日更新
2006年12月23日よりシネマライズにてロードショー
グローバリゼーションの内実に鋭く迫る傑作ドキュメンタリー
人生の“勝ち負け”が経済面での成否によって冷酷に決定される市場原理主義の功罪については、“格差社会”がキーワードになった、ここ日本でも分かった気になれる。だけど、その原理が世界の隅々にまで行き渡った結果としてのグローバリゼーションの内実については、どこか言葉だけの通りいっぺんとうな理解にとどまりがちだ。中央アフリカのビクトリア湖周辺で起こった生活や人間性の激変を描くドキュメンタリー映画「ダーウィンの悪夢」は、鮮やかな手際で、しかも説教臭い教科書的図式性とはほど遠いエモーショナルな次元を強力に維持しながら、グローバリゼーションの“悪夢”を僕らに示してくれる。
貧困、飢餓、戦争、エイズ、ストリートチルドレン……。アフリカに巣食うこれらの悲劇を、僕らはテレビ画面を通過する“情報”として消費するばかりではないか。“かわいそう”と同情してみても、僕らはそれを自分たちから遠く離れたどこかでの“悲劇”として受け流しているのではないか。この映画の偉大さは、そうした“情報”の次元を突き破るべく4年の歳月をかけて現地の人々と豊かな関係性を築き、グローバル化された世界では遠く離れた場所での悲劇も僕らが営む日常生活と地続きであると告げてくれる点にある。この映画で焦点になるナイルバーチという魚は、白身魚の切り身として僕らの食卓に並んでいるかもしれないのだ。恐ろしいのに面白い……必見の傑作ドキュメンタリーである。
(北小路隆志)