「持たざる、者」HAZARD ハザード ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
持たざる、者
「冷たい熱帯魚」で注目を集める園子温監督が、オダギリジョーを主演に迎えて描く、青春映画。
映画監督、園子温はとある取材に、このように答えている。
「本当に面白い脚本を書きたいんだったら、普段は付き合わないような危険な雰囲気の恋人と付き合って、刃物を突きつけられて死を実感するような経験を積んでみろ」常に、人間の弱さと衝動、殺意の爆発を極限まで張り詰めた物語で描いてきた監督らしい台詞である。
そんな作り手が、アメリカ・ニューヨークを舞台にして書き上げた世界が本作である。日本の生温い空気、殺伐とした危険な香りを排除した雰囲気に眠気を誘われている平凡な大学生が、衝動的に外国、しかも恐ろしく危ない街に飛び込んでいく。
何度点けようとしても、上手くいかないライター。水溜りに、蹴落とされる男。そして、この現代にあっても根強く主人公を苦しめる人種の壁。この物語は、常に「失敗」と「挫折」、「違和感」の要素が充満している。
生きている実感を求め、犯罪まがいの強盗に走る男達。だが、作り手は彼等の勢いばかりの爆発と破壊を否定するまではいかないにせよ、スローモーションを多用した映像や、余りに幼い少年のナレーションで彼等を見つめ、幼稚さと哀愁の感情で埋め尽くしている。
それもそのはず、本作は若者が自分の居場所を見つける話ではない。「自分の居場所くらい、自分で作れ」と、海外という特異な空間に逃げ場所を求める人間達を思い切り張り倒す物語なのだ。東京でも、田んぼ道でも、同じ。お前次第で、田舎も危険な開拓地に変わる。作り手は主人公の暴走と殺意を通して、私達という逃げ腰の保守人間達の背中を叩く。
そんなところでくすぶるな。生きろ、今、この場所が【危険な場所】=ハザードだと。
毎日に鬱々している方には一瞬、すかっと爽快な映画に映るかもしれない。しかし、観賞後に突きつけられる。主人公は、貴方自身だと。「持たざる者」は、見栄えばかり繕っても、ずっと「持てない」。何が自分に足りないか、考えろ。鋭い指摘と、痛々しいユーモアが一つの物語に意味と、味わいを与えてくれる。